「これからの地方・農村の可能性」

Vol.35対談・鼎談
関西支部だより+ 35号(2020年11月版)  
特集「コロナ以後の新しいエコシステム」Vol.1
佐久間康富さん(和歌山大学)
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山崎義人さん(東洋大学)
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嵩和雄さん(NPO法人ふるさと回帰支援センター 副事務局長)    

日時:8月5日(水) 場所:オンライン
主催:都市計画学会関西支部編集広報委員会

■企画趣旨

コロナは人々の価値観をどのように変えつつあるのか.
新たな価値観は人の行動やワーク・ライフスタイルをどのように変容させ,
それは都市と地方の関係をどのように変容させるのか.
居住,労働,観光,コミュニティのありかたがゆさぶられる今こそ,
これからの地方・農村再生の戦略の可能性を探りたい.

編委)このコロナ禍で、都市や生活様式など、様々な仕組みがかなり変動している中、様々な変化が前倒しで急速に起こっているような状況があると感じています。そのような中、地方のあり方も変わるのではないか、という意見も出てきています。そこで、これまで地方に深く向き合ってこられた先生方から、人々の価値観の変化や地方の可能性をどう捉えられているのか、お話をお伺いしたいというのが今回の趣旨です。

コロナが人々の価値観を相当揺さぶっているのではないか。価値観が変われば、行動やワークスタイル・ライフスタイルはどう変わるか。都市と地方の関係性、地方のまちづくりのあり方も変わる可能性があると思います。住み方や仕事の仕方、コミュニティのあり方がどうなっていくのか。日頃お考えになっていることを教えていただければと思います。

■コロナ禍での移住の動き

佐久間)まず嵩さんから、ふるさと回帰支援センターでの業務の様子や問い合わせ・相談の様子などのお話をお伺いしましょう。

嵩和雄氏(NPO法人ふるさと回帰支援センター 副事務局長)

嵩)移住相談者は、私がセンターに入った2009年の終わり頃から比べても15-6倍になっています。最も増え方が大きいのが2014年から15年にかけてです。この時期に地方創生の動きがあり、全国の自治体が人口減少対策として移住政策に乗り出しました。

60年代、70年代頃から移住の動きは実際にありました。その中で変わってきたのが、若い世代が動き始めているということです。2008年以降徐々に増えてきましたが、この時期にはリーマンショックや東日本大震災がありました。かつて、地方移住というのは、団塊世代から上の悠々自適な田舎暮らしというイメージでしたが、今は現役世代がほとんどです。

ただその地方というのが、いわゆる農山村や田舎ではなく、地方都市も含めた地方と見られています。その一つの背景として、やはり現役世代が働く場を求めているということです。そのため、働く場がある地方都市の注目が高くなっているという現状があります。

佐久間)この2月・3月以降のセンターの様子はいかがでしょうか。

嵩)2月・3月以降からセミナーなどのイベントがほとんど出来なくなりました。4月・5月は緊急事態宣言を受けて、対応が電話とメールのみになりました。6月は電話・メール・面談も昨年度に比べて増えています。

これは、これまで移住を考えていた方が、4月・5月に相談できなかったので、6月に来たのだと我々は考えています。ただ7月に入ってから少し動きが変わってきて、コロナというキーワードが少しずつ感じられるようになりました。

緊急事態宣言以降、在宅勤務を半強制的にやるようになり、通勤ラッシュが不要な暮らしが非常に快適だということ、もしくは、ある程度リモートワークできるのでは、と気付き始めました。大都市の企業としても、高い家賃を払ってオフィスを構えなくても職員が快適に仕事ができるのであれば、そこにお金をかけた方がいいのではないかと気付き始めました。

移住に関しては、大きく分けて、仕事、住まい、受け入れ体制の三つの課題があったと思います。

今回コロナがどのような影響を与えたのか考えていますが、仕事の問題が解決した、と感じています。地方に行ったら仕事がないということが、リモートワークで解決するのかと思っています。ただ現状ではまだまだ認めていない会社もあるので、リモートワークのインフラがある程度整うと、一気に加速するのではないかと期待しています。

ただマスコミが騒いでいるようなコロナ移住が起きるのかというと、個人的には起きないと思っています。いわゆる郊外への引っ越し、郊外の再認識が起きるのではないかと思っています。実際センターでも、首都圏に1時間から1時間半ぐらいで通えるところの相談が増えてきています。移住とまではいかないようなちょっとした地方暮らしです。

二つ目の住まいの問題については、これまでの相談と言うと、賃貸ニーズが圧倒的に高かったのですが、地方に行けば行くほど賃貸の物件はありません。若い世代にとって、家を建てる、中古物件を購入する、というのが難しいと思います。ではローンを組めるかというと、転職と移住が一緒の場合が多いので、すぐローンを組むことがおそらくできません。そのため、転職しないで移住ができると、住宅購入が進むのではないかと、これも期待を込めて思っています。ただその地域に縁のある人がターゲットになるのではないかと思っています。

三つ目の受け入れ体制については、やはりよそ者への不安が結構出てきていると感じます。これをどうクリアしていくかが地方移住の鍵になると思います。

■「移住」と「引っ越し」

佐久間)ありがとうございます。「移住」と「引っ越し」を使い分けていたと思うのですが、説明いただけますか。

嵩)基本的に移住というのは、暮らし方そのものを変えるという、目的を持った移動を言うべきではないかと思っています。地方への移住が一般的なこととして認識されてきたのが特にここ5、6年です。マスコミでも移住という言葉が多く出てくるようになりました。移住の泥臭い部分を見せない、いわゆるおしゃれな移住というイメージが出されています。

先ほどお話しした東日本大震災を契機に疎開的移住が進んできました。そういう人たちがライフスタイルを変えたくないので、地方都市に目をつけました。もう一方で、震災をきっかけにこれまでのライフスタイルを変えたいと言う人たちも出てきました。

その両方がありますが、地方創生が始まり首都圏に近い自治体が移住政策と言いながら、実は引っ越し政策のようなことをやっていました。そこで移住とは何かと、このような定義を考えました。移住というのは、暮らし方そのものを変える行為であり、自らの意思に基づくというものです。距離や住環境だけではないと考えています。

佐久間)ありがとうございます。一言で言うと、移住はすぐに起きなさそうだということ、引っ越しはある程度動きそうだということを聞かせてもらいました。

嵩)そうですね。郊外の復権があると見ています。

佐久間)私もそう思います。引っ越しか移住か分かりませんが、最近まさに移動された山崎さんにもお願いしたいと思います。

■「都市:地方=1:2」説

山崎義人氏(東洋大学)

山崎)鎌倉が実家で、実家でも仕事ができるのですが、東京でも仕事をしなければならないので、二拠点を選びました。大学の近くに部屋を間借りし、この半年ぐらい実験的に二拠点居住をしてみようと考えています。鎌倉と言っても郊外の住宅地みたいなところで、郊外の見直しということはあると私も思っています。

近代的な都市というのは、仕事場と暮らしの場を電車でつないできました。これらを行き来することを続け、都市を作ってきたということなのですが、鉄道で毎日移動しなくていいという状況が生まれています。新しい都市というものを生み出していく、コンセプトを考える時にきているのではないかと思っています。

日々の移動がライフとワークを分けるという行為ではなくなるのではないかと思ったことが、二拠点居住をやってみようと思った背景です。ライフもワークも実家でできますし、ライフもワークも職場の近くでできる状況になっています。そうすると、個人の価値観で重心をどこに置くのか選択できる可能性もあるわけです。特にインターネットリテラシーの高い人達は、そのような状況になってくると可能性として考えています。

私の場合は、東京1に対して鎌倉2ぐらいがバランスとしていいと思っています。「都市:地方=1:2」説というのを考えています。私は週単位か2週間単位で1:2ぐらいで東京と鎌倉を往復しようかと考えています。そういう暮らし方が、特に東京の場合は生まれる気がします。

関西をイメージすると、私は篠山に1、2年住んでたことがありますが、篠山あたりに居を構えて仕事場に行くみたいな暮らしも個人的にはあり得ると思っています。

佐久間)ありがとうございました。「東京:地方=1:2」説というのがとてもわかりやすかったです。

嵩さんの言うように、コロナによる構造的な変化は起きないと思っています。もしそういう変化や価値観が変わるような移住の動きがあるとしたら、もう少し先だと思います。

山崎さんが言うような都心1:郊外2のような選択はされるのではないかと思います。嵩さんが言う引っ越しの動きというのは短期的にはあると思います。

山崎さんからワークとライフの話がありましたが、ワークとライフは分けたいとも思いました。その介入が不快なわけではありませんが、ある程度の距離は必要だと思いました。

山崎)その介入による一体感のような価値観に変わっていくことはないでしょうか。

佐久間康富氏(和歌山大学)

佐久間)サテライトオフィスのような、ある程度距離を調整しながら時間を過ごす選択肢は出てくるのではないかと思います。例えば大阪市の人とは、環状線の外側の住吉や東住吉など天王寺といった拠点ではないところに核を作りたい、都心まで行かなくても地域の人が出会って仕事するシェアオフィスのような場所を郊外に少しずつ作っていきたいという話をしていました。エリアリノベーションのエリアかもしれないしエリアマネジメントのエリアかもしれませんが、エリアという単位が徒歩圏内なのか、ある価値が共有されるエリアなのか整理できていませんが、そういう単位が見直されていく可能性はあるのではないかと思います。

本来ならそういう拠点も作りつつ、都心の1をみんなが捨てることができるかと言うと、私は今都心に住んでいる人は1を捨てることができないと思っています。

■地域への受け入れ

嵩)コロナ禍で都市と農村の交流の価値を言うことができないのが、非常に苦しいところです。移住の前に地域の人と交流し、関係性をつくった上で移住すると、そこに定住する基礎ができるのではないかと思いますが、それを飛ばして短い期間で疎開的移住をしたいという人が出てきたときに、どこがどうやって受け入れるのかということを考えています。

シェアリングエコノミーという言葉があり、ADDressのようなサービスがかなり取り沙汰されています。そういう生き方みたいなものが少しずつ承認されつつありましたが、今後コロナでどうなっていくのかと思います。

都市住民のエゴかもしれませんが、やはり自分の好きなところで暮らしたいので、移住場所は自分で選びたいと思いますが、地域側が外からの人を受け入れたくない状況になったとき、彼らは行き場所を失うのかなと思っています。受け入れ側がどのように開いていくのか、お聞きしたいと思います。

佐久間)やはり開いてほしいし、もちろん閉じて世代の再生産を続けられるところはいいと思いますが、期待を込めて開いてほしいと言わざるを得ません。開いた上での丁寧な関係構築をやってきた上で、次の展望や、やることを考えるべきだと思っています。

嵩さんとも、人口の数ではなく質的な新しい価値を生み出せるかが、交流や関係の肝ではないかとこれまで議論してきました。

山崎)嵩さんや佐久間さんと議論していたのは、やはり血縁とか関係者じゃないと受け入れないのではないかということです。要するに縁者が帰るというモードに切り替わった気がします。

佐久間)関係人口という言葉もそういう交流の先にある関係ということではなく、ソーシャルキャピタルのような関係の有無と捉えた方がとよいかもしれません。

山崎)コミュニティの信頼を持っていて、コミュニティの規範を守れるということが一定担保されるような人しか受け入れられないような、ダイナミックな動きではないことしか突破する方法がない気がします。

嵩)移住の受け入れに関しても、誰かから紹介されたということが大きいです。そういう人間関係があるということが一つ閾値なのかと思います。我々はよく移住の話をする際に、不安感の解消をしてくださいと言います。移住する側の不安感の解消は我々ができるのですが、受け入れる側の不安感はもっと大きいのです。それは地域のコーディネーターなど移住者を支える人でないと出来ないと思います。何かあった時に面倒を見るような人がいるかいないかというのが大きいのではないかと思っています。

■質疑

編委)これが一過性のもので、ワクチンもしくは薬ができた後に戻るのか、それとも、一つの変曲点になり価値観が変わり変化が進むのかどうお考えですか? 例えばリモートワークは、おそらく一定定着するだろうとお話しいただきました。そうなったとき、ライフもワークも一体の場となり、そこで外に出て食事もするようになった時に、そのエリアが再編されたり、違うコミュニティができたりする可能性もありますでしょうか。

山崎)ワクチンが開発されて普及されるまでの時間によるのではないかと思います。私は個人的には戻らない方向にかけたから、二拠点居住を実験的にしています。

老後の家をどうしようかと思っていたところだったのですが、コロナ前は大学の近いところを探して住もうかと思っていましたが、今は鎌倉に家を買おうか考え始めています。

関西圏は篠山や奈良など歴史があり自然も豊かで、1時間や1時間半ぐらいで都心に出ることができるような場所がいいと個人的に思います。

佐久間)ワクチンの状況は分からないので、分からないなりに考えてみると、オンラインでできることはかなりの人が気づきました。「1:2」の働き方や、例えば天王寺や梅田に行かなくても拠点が出来ればいいということにも気づきました。選択肢として新しく出てきたものは、有効であり続けるのではないかと思っています。

編委)お話で興味深かったのが、移住と引っ越しの違いです。暮らし方の転換とセットで、郊外に移住する、地方の村に引っ越す、ということから、地方の次の動きが生まれそうだと思いました。

嵩)様々な暮らし方の可能性が、特に若い方の暮らし方を見ていると感じます。結局リモートワークが鍵になると思っています。通勤時間が非常に無駄な時間だったという話をよく聞きます。

コロナ前の話でいうと、結婚や転職を考える20代後半になった時、故郷でもっと面白いことをしたい、自分らしい暮らしをしたいという人たちが出てきていました。そういった人たちが今後地域を変えていけば、働くことと暮らすことの接点が近くなるかもしれません。そして、自分の時間や家族との時間をどう過ごすかという考え方が、次の世代にも継がれていくのではないかと思っています。

(編集/進行:山口敬太(京都大学,編集広報委員会委員長))

インタビュー動画を期間限定で配信します(2021年1月まで)。
https://kyoto-u-edu.zoom.us/rec/share/xq4WKxR1T5bUKmcrIzidN6-EvzOLpAMM9HGLkwVkO6_6InPWsbG9JKahwXofEtKu.twrAfbmUHHIIrvZM?startTime=1596620964000

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