~市民とともに課題を解決して、暮らしたいまちに~

Vol.37インタビュー

尼崎市前市長・稲村和美氏に聞く都市経営とまちづくり

関西支部だより+ 37号(2023年2月版)   
特集「都市経営とまちづくり」No.1

インタビュー記事尼崎前市長・稲村和美さん

日時:2022年10月24日 場所:尼崎市役所
主催:都市計画学会関西支部編集広報委員会
趣旨:特集企画「リーダーに聞く都市経営とまちづくり」の第3回は、これまでの産業都市の印象だけでなく、最近では若年層の転入増加が続くなど住みたいまちとして選ばれるまちへと変化を遂げる尼崎市において、市民の力を活かしながら都市経営・まちづくりを進められてきた尼崎市前市長・稲村和美氏にお話を伺いました。(インタビューは市長在職中に実施しました。)

1 尼崎市の強みを活かす

稲村前市長:尼崎市の強みとして、まず挙げられるのが、大阪に近いという立地性、利便性があります。その強みを活かしながら、市域全体に居住地域が広がり、南部を中心とした産業地域でまちを支えてきました。そのような成り立ちのまちで、私が市長に就任した時期は、円熟期にある成熟したまちという状況でもありました。都市計画の観点で言いますと、ほぼ全域が市街化区域であり、新たな開発ポテンシャルのある土地も少なく、地価がそれほど安いわけでもないので、密集市街地のような地域は更新が進みにくい状況でした。いわゆるインナーシティの課題を抱えていて、伊丹市や宝塚市といった近隣市に若い世代が転出する傾向にあることが課題でした。

 そこで、私は利便性があるという強みを最大限に活かしながら、若い世代にも選ばれるまちであるために体感的なまちの魅力を引き上げることを都市経営における方針とし、さまざまな施策を進めてきました。もちろん、福祉など行政としてすべきことは前提とした上で、ウエイトの置き方を意識してきました。

 例えば、子育てしやすいことや自分の余暇や活動が充実していることといった住環境に関連する要素は居住地を選ぶ上で重要になってきますので、さらに力を入れていこうと考えました。コロナ禍の影響もあり、リモートワークが浸透してきた中とはいえ、通勤の負担が少なく職住近接で働ける環境には一定の優位性があります。さらには、若い世代に外国人が多いという特徴もありますので、多文化共生の施策も進めてきました。また、住宅において賃貸の割合が多く持ち家率が低い傾向にあるのも特徴で、賃貸から住み替えするときに転出される傾向がありますので、市内で良好でリーズナブルな住宅が供給できるかも重要な要素です。このように、住環境の整備とセットで、選ばれるまちとしての魅力向上の施策を打ち出すことで、住みやすいまちという印象が広がってきたと感じています。

 また、尼崎市の特徴として、鉄道が3つ通っていまして、その沿線のカラーがはっきりしていることもあります。南の阪神電鉄沿線は産業、北側の阪急電鉄沿線は住宅、真ん中を通るJR沿線は両方が混在している。そのため、沿線ごとのブランディングが必要だと思っていまして、阪急電鉄沿線は定住のイメージ、阪神電鉄沿線は交流のイメージをもっています。

 その一環として、阪急電鉄沿線では、西宮市と協力して武庫川新駅の設置を進めていまして、周辺地区は新規に供給される住宅が少なく、若者世代が転入しにくい状況にあり、今後の定住促進につなげる意味でも期待しています。

 さらに、定住に関しては、住宅マスタープランも改定を行いまして、これからの本市での暮らし方や住まい方まで書き込んだ特徴的なものができました。審議会でも活発で面白い議論をしてくれていましたし、担当者も頑張ってくれました。

(仮称)武庫川周辺阪急新駅:尼崎市
https://www.city.amagasaki.hyogo.jp/shisei/si_kangae/si_keikaku/1011068/1026212.html

尼崎市住まいと暮らしのための計画:尼崎市
https://www.city.amagasaki.hyogo.jp/shisei/si_kangae/si_keikaku/1031182/1023269.html

2 まちづくりへのアプローチ

 住環境の話をしていると、今日のテーマである、都市経営の話につながってくるのですが、私自身、都市計画や建築・土木が専門でない中で、都市計画の重要さを実感していて、尼崎市の長い歴史の中で、先人たちが築き上げてきたものをさらにどう前に進めていくか、市の職員ともいろいろな議論もしながら進めてきました。時代を経て、かつての土木局、都市局が都市整備局というひとつの組織になっていますが、都市整備の分野は道路などのインフラ、公園、住宅、建築指導や密集市街地対応など多岐にわたり、どうしても縦割りになりがちです。そこで、局内に都市戦略推進担当(課レベル)という部署を設置して、定住・転入促進に向けたエリアマネジメントや市街地整備を受け持ちながら、まちづくりの総合相談窓口として、どこの話にも関与する役割をもたせたところ、市民の提案を前向きに受け入れることができるようになってきました。

 その事例のひとつですが、阪神電鉄出屋敷駅の駅前広場リニューアルがあります。駅周辺では、地元の団体や民間事業者が清掃活動を行ってくださっていました。しかし老朽化が進む中、清掃だけでは限界があるとのことで、駅前の民間事業者から寄付をするから整備しないかという話がもちかけられました。それは、以前の尼崎城の寄付のときと同様に、市にお金を寄付するのでは自分たちの満足するものができないので、寄付する自分たちが工事をしたいという申し出でした。

 もちろんありがたい話なのですが、いざこういう話がきたときに役所組織では動き方が難しく、最初に聞いた部署は断ったようです。そこで、都市戦略推進担当が入って、あくまで駅前広場という公共の場所を個人のものにするわけにはいかない中で、どう公共性のあるものにしていくか知恵をしぼっていったわけです。寄付者とともに、地域のコミュニティを担当している部署と自治会など周辺も巻き込んだワークショップやアンケートを行い、どんな駅前広場にしたいか意見を聴きながら、民間資金による駅前広場のリニューアルを実現していきました市民と民間側も勉強を重ねて、「大きな木を植えて木陰をつくりたい、でもムクドリの巣になる」といった話をひとつひとつ調整していったわけです。

 今まで行政はできないしか言わなかったわけですが、寄付者も丁寧なプロセスをともに踏んでくださり、「なぜダメなのか」、「維持管理が大変だから」といったところをお互いが知り、学びあい、双方にとって貴重な経験になったプロジェクトでした。

出屋敷駅周辺の特色あるまちづくり:尼崎市
https://www.city.amagasaki.hyogo.jp/kurashi/siminsanka/matidukuri/1030756/1029361/index.html

出屋敷駅前のひろばを使いたい方を募集します:尼崎市
https://www.city.amagasaki.hyogo.jp/kurashi/siminsanka/matidukuri/1030756/1029361/1032300.html

 こうした事例がいろいろとでてきていて、たとえば公園の砂場が不衛生で子どもが遊べないから、芝生のスペースがほしいという話がありました。では、やりたい人とやってみましょう、行政もサポートしますといった具合です。

 また、若者がスケボーをしたい、やりたいけど苦情の調整が大変で場所がないという課題がありました。では、自分たちでスケボーパークをつくるところから一緒にやりましょうと。どんなルールであれば、自分たちが守れるか、2年がかりで若者がサークルをつくって考えるといったプロジェクトも進行中です。その過程では、スケボーパークの社会実験の場所をつくりました。実験を通して、使う人がつくり、修正できる、お互い言いたいことを言うことで、手間はかかりますが、お互いの納得感がうまれ、やりたいことを自分たちの責任のもとでできるようになります。行政がしっかりとできない理由を言えば、継続するためにはどんなことをすればよいかという別のアイデアが市民からでてきます。行政の予算が潤沢ではないということもありますが、お金がないからこそ知恵を出し合おうとこうした取組を続けてきました。

 さらに、子どもの育ちを支えることにも力を入れてきました。親だけでなく子ども自身の育ちも大切です。孤立からは自立は生まれない、SOSを出せるようなつながりを得られていない環境や貧困の連鎖を断ち切り、彼ら彼女らが守られるだけでなく主体的に動いていく、ひとりの主体として尊重するという考え方です。ひと咲きプラザは大学が廃止になったことがきっかけで敷地建物を市が引き取ることになって再整備し、子ども・ユース支援機能を集約させています。また、児童相談所は県の所管ですが中核市も設置が可能です。市の児童虐待相談件数が増加傾向であることもふまえて、基礎自治体として様々な機関や支援者と連携し一貫した支援を行うために、市の児童相談所も設置する予定です。

 あらためて、住環境をよくすることは、そこに住む人たちが暮らしたい暮らし方ができるかが重要だと実感しています。

3 まちづくりでの「人」の重要性

 最後になりますが、まちにとってやはり「人」が重要だと思っていまして、先ほどお話した都市戦略推進担当は、事務系と技術系の職員が混ざっていて、市民団体との関係を構築している職員や、副業を推進しているのですが、そういったことに対してやる気のある若手職員などが入っています。面白い人材はもっと面白いことを求めて、市役所を辞めてしまいがちなのですが、市役所でこそ面白い仕事ができるということを体験してもらう。そういったこともおもしろいまちづくりにつながると考えています。 また、定住人口の増加を目指していますが、やはり転勤など出入りが多いのも事実でして、定住してもらうためには、まちのイメージ向上が大切で、内側からのシビックプライドの醸成が重要だと思います。生まれてから生涯尼崎に居続けないといけないということではなく、尼崎にいるときにその人の琴線に触れる体験をした人は尼崎の人を悪く言わないし、その体験をもった人たちがまちのおもしろさを語ったり、その雰囲気を外から見た人が、尼崎面白そうと入ってきてくれるのがひとつの理想形かもしれません。尼崎のまちと人の魅力で、ますます尼崎のおもしろさに磨きがかかって、暮らしたい暮らしてみたいまちになってきていると感じています。

シティプロモーションの取り組みが3つのアワードを受賞:尼崎市
https://www.city.amagasaki.hyogo.jp/shisei/si_kangae/si_keikaku/1024063/1026889.html

4 質疑応答

編委:かんなみ新地のあるエリアの敷地について、市が用地取得を進めているというニュースを見ましたが、どのようなお考えですか。南部地域では工業で発展してきたまちをどのように再生されようとしているのか興味があります。

稲村前市長:暴力団対策の観点で、警察や地元と一定の取組を行っていた背景がありまして、夜に一人では通れないといったエリアの課題を解決し、安全安心なエリアに変えていくという思いがあります。取組の最中ではありますが、イメージをよくするきっかけになるような使い方に変わっていくといいなと考えています。

 また南部地域については、ドラマのロケで活用される場所もあり、まちの人の息づかいが感じられる面白いまちです。その良さを打ち出す広報をするなど、プロモーションも大切だと考えています。

編委:都市経営にあたって、税収を増やすことは重要だと思いますが、どのようなポイントに力を入れられてきましたか。

稲村前市長:現役世代の転出超過は課題であり、定住促進に力を入れています。産業については、最近では物流施設が増えています。技術革新で機械化が進んでいる一方、昔の倉庫と違って、昨今の物流は雇用を増やす効果も大きいと感じています。

 あとは、当たり前のことではありますが行政運営をしっかりと地道にやるということにつきます。財政規律をしっかり持ちながら、債権管理やインフラ維持など、やるべきことをやっていく。こうした取組が基礎となって、さまざまな新しい政策が実行できると思います。

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