関西支部だより+ 37号(2023年5月版) 特集「都市経営とまちづくり」No.3
インタビュー記事畑本康介さん(NPO法人ひとまちあーと 理事/株式会社緑葉社 代表取締役)
日時:2022年12月22日 場所:旧カネイ醤油
主催:都市計画学会関西支部編集広報委員会
趣旨:兵庫県たつの市の城下町龍野において、数多くの古民家の再生・活用を実施しエリア再生に取り組まれている緑葉社の畑本康介さんに、市民出資の不動産である緑葉社の事業内容や今後の展望等についてお話を伺いしました。
1.市民出資の不動産
編委:地域をイノベーションするような様々なアイデアを実現されていると思います。市民で残していこうとする動きでありながら、経済にも乗せていて、新しいコンテンツで非常にクオリティの高いものが入ってこられていると感じます。全国に元気を与える取組だと思っておりまして、是非その内容をお聞きしたいと思います。
畑本氏:このやり方は負荷が大きい面があるので、もう少し他のやり方を皆さんやった方がよいと思いますが、まず市民出資の不動産の始まりについて。
後程話しますが、私の場合、この辺りの地域リソースが溜まっていて、かつ、地域の人との信頼関係がある程度できている状態から始まりました。そして、先代の緑葉者代表が地域の仲間に呼びかけて、不動産を買ってもらう取り組みを実践していました。その仕組みを検証し、昇華させて、再生済みの物件を個人の投資家に買ってもらうようにしました。
この取り組みを続けるなかで、老舗企業であれば、内部留保キャッシュを地域不動産に充てるという話に乗ってくれるのではないかということに気づいたのです。興味があるかどうか軽く聞いてみたら、すぐに見つかったということが始まりです。
地域の企業からすると、内部留保キャッシュの一部を不動産に充てるというのは、そこまでハードルの高い話ではありませんし、老舗の城下町にあるような企業でしたら、少ない利益でも地域が活性化するならいい話だと考えてくれるかもしれません。

2.事業の仕組み
畑本氏:資産を寝かすよりはという考え方と、それを通じて社業の方にもプラスになるという考え方です。理解できる経営者が、地域側にどれだけいるかということかと思います。
先にきちんとそれを押さえて、総額を決めてスタートを切っていればもっと楽だったと思います。私はノウハウがなく闇雲だったので、とにかく目の前の物件に対して投資先を見つけ、その後次の物件…というように進めていきました。
この取組がそれなりに各地の皆さんに興味を持たれているので、参考にしていただき、これほど汗かかず、もう少し地域デベロッパー的な動きをしてもらうとよいと思います。
こういう発想を地域団体の方はぜひ持つべきだと思っています。不動産を買って運用して、さらにバリューアップして売るという発想です。
うちが買い取った後の仕組みのフロー図があります。この仕組みには、調整ポイントがいくつかあります。まず物件を買い取る価格です。買い取った後、買い取ったものをリノベーションし、売却します。その際どれぐらいの粗利をとるか、ここも調整ポイントです。買ってもらった後、リースバックする利回りをどれぐらいにするか、ここも調整ポイントです。リースバックした後、転貸をするので、いくらで貸すのか、ここも調整ポイントです。というように、チューニングのギアがいくつもあるのです。
要は出口側の賃料が現実的かどうか、買い取るときに適正な価格になっているかどうかの両方からの逆算と積み上げで考えるというのがうちのパターンです。

このような仕組みで30店舗お店ができたのですが、退店した事例はこの8年間で1店舗だけです。みんな長く続いてます。

編委:元々空き家を売りたいという動きが、地域内にあったのでしょうか。
畑本氏:あったと思います。売りたいけど売りたいと言えない、誰にでも売りたいわけじゃない、というのが根本にあります。日本全国古い町だったら大概そうではないでしょうか。
そういう環境で私がなぜ買い取れたかというと、一つは20歳ぐらいから伊勢屋という江戸時代の味噌蔵を改装した施設で、芸術家村のような地域コミュニティを運営していたことが関係しています。私はどちらかというと遊びに行っている側だったのですが、運営組織の副代表をしていたので、20年前から地域の人との接点がありました。
もう一つは、緑葉社の前の代表が、緑葉社を旗揚げし、同級生たちを中心に呼びかけて、地域貢献をする、不動産免許を持って物件を買い取る、ということをコツコツやり始めていたということです。
この二つの流れを継承して動くことができました。2014年のNPO法人ひとまちあーとの代表を交代するタイミングで、事務所を日山という地区に構えることにしたのですが、長屋をみんなでリノベーションし、低コストで綺麗に使えるようにし、そこを事務所にました。元々ひとまちあーとがNPO支援のNPOというポジションを取っていたので、事業をやる人の相談に乗るリズムが既にあったのです。
その物件で相談に乗るわけなので、私もこういう物件で事業所をやりたい、お店をしたい、という声が上がりました。実はあそこの物件いいですよね、あの物件は確か売りたいという話だった、といった話も聞こえてきました。しかし一方で借りたいと言ったら、荷物を置いているから貸せないと言われるなど、需要と供給が全然マッチしていなかったのです。
誰かがどうにかしないと気づいたので、私でやり始めました。やり始めたけど残念ながら不動産知識がなく、勢いでDIYばかりしていました。
しかし声はすごく届いてきていました。銭湯跡があるから何かに使えないかという話を持ちかけられたり、様々な話題を持ちかけられるようになりました。そして、実際銭湯の活用をプロジェクト化し始めました。
しかし、今だったら先に買いに行っていたであろう物件を買い逃したのです。買われてしまい、解体され、今新築の家が建っています。この出来事が私にとって非常に大きかったです。
信頼関係さえあれば、この町の物件を素のままで借りたら2,3万円以下で借りることができてしまいます。とはいえボロボロの状態で貸すわけなので、そこから素人で全部修繕から何からやらないといけないので、途方もないですよね。
コストをかけられないから、スピードも上がらない。では地域にとってそれがプラスなのかというと疑問だと思いました。各地でDIYの事例が起きているのはいいことだと思いますが、こういう田舎の中でも都会寄りのところでは、そういう事例ではない方がいいと思いました。
先に私らで投資させてもらい、あとは仕上げるだけでいい状態にするので、話が早いですよね。編み出したのがこの図に書いてあるような、買い取って再生して再販するモデルです。活用事例は、店舗7割、事務所0.5割、住まい2割程度です。
編委:あまりこの辺りは観光に振り切っている感じではないかと思いますが、店舗は当然お客さんがいないと成り立たない。割と町の人が使うのでしょうか。
畑本氏:町の人は高齢の方が多いので、頻繁に通ってくれるわけではありません。ブランディングでは、まちの暮らしの質の向上、暮らしそのものが観光資源だと言っています。
実情は片道30分圏の人たちがランチをしに来ています。旅行や観光までではないですが、ちょっとお茶やランチをしに出かけるときにちょうどいいようです。
そのため、あまり観光に振りすぎずとも、経済的に問題はありません。ランチ難民が発生するぐらいです。これだけ店舗が増えたのに、まだまだ足りていないです。
編委:緑葉社さんを通さずに他を利用するところはあるのでしょうか。
畑本氏:ありますが、緑葉者に相談にくる場合がほとんどです。
編委:プロモーションで気をつけていることはありますか。
畑本氏:変に目立つのは良くないので、メディアへの露出は控えていました。しかし、ここまで再生物件も増えてきて、緑葉社への認識も高まっていますので、逆に積極的に露出して、もっと知っている人を増やさないといけないと思うようになりました。
所有者は毎日自分の家の屋根が落ちないか、人様に迷惑かけないか、ずっと気にされている中で、なかなか売れないという実情があります。重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建)の網もかかり、解体に対してのハードルも相当上がりました。
編委:積極的に緑葉社さんが働きかけるというよりは、オーナーさんの意向が強いでしょうか。
畑本氏:オーナーさんは基本売りたがっています。所有者も高齢で、もう施設に入るからということで娘さんが来られたりすることもあります。
いかに緑葉社が便利な組織かということは、だいぶ理解が進んだのかなと思います。
編委:先程重伝建の選定の話をされていましたが、取り壊しのハードルが上がり、所有者の決定の速度に好影響があったというように理解しました。この取り組みの今までの経緯を見ていると、重伝建になって、いくつかの影響があると思うのですが、不動産事業としてよくある、手をつけにくいところはここでもあるのでしょうか。
畑本氏:正直、重伝建に対しての反応や緑葉社の動きの変化をきちんと体系的に振り返れてないというのが前提としてありますが、雑感で言うと、概ねプラスに働いているかと思います。
最初のリノベーション工事はしっかりとやりますが、あとの細々とした修繕がありますよね。その度に申請しないといけないので大変というのは正直あります。ただ、売るも貸すもしづらいエリアだという認識は今の所有者さんたちの間ではかなり高まっています。だからこそ、緑葉社のような一体管理をするエリアマネジメントの組織が集中管理した方が効率がよいという提案はしています。
この2、3年は、意図的にカネイを中心とする北エリアと、古民家ホテルなどを仕掛けている南側のエリアを意図的に整備しています。
編委:通常出口を決めてからリノベーションを始めると思います。買って、リノベーションをするにしても、例えばどういう職種なのか、住居なのか、店舗なのかでも違うと思います。おそらく様々な事例があると思いますが、出口が見えなくてもリノベーションをするのか、大体は想定される人や使い方のイメージがあり、それぞれの最低限のリノベーションをやっているのか、どういう進め方なのでしょうか。

畑本氏:両方あります。相手が見えている中で整備するケースもなくはないですが、でもあまりないです。こちらとしては退店した後も別の人が活用していくために、普遍的なリノベーションをしなければなりません。
リノベーション工事の途中で物件を見てしまうと、いろいろ言いたくなってしまいます。しかし、それはA工事じゃなくてC工事対応になります。Cを想定するのですが、普遍的Cを想定してA工事をやっています。
編委:様々な成功失敗を重ねてそこに行き着いたのですね。
畑本氏:基本的には、中途半端な状態で見せません。住居の場合は借家まで仕上げて見せます。
編委:用途はどのようにして決めるのですか。
畑本氏:立地と物件の状況で判断します。正直住居することはあまりないです。移住者誘致の観点から言うと相反してしまうというのですが、他方で現実的に考えて古民家で住むってハードルが高いですよね。管理者として古民家を借家で供給することのリスクはやはり高いと思うのです。
編委:今日少し歩いて、結構ユニークなお店が入っていると思いました。周辺からお客さんが来るのかもしれないですが、どうやってその人たちを説得したのでしょうか。今はもう出資させてほしいという方が来るのかもしれないですけど、当初はそうではないかと思います。魅力を伝えたり、潰れないような何か支援をしていたりするのでしょうか。
畑本氏:お金の話を先にすると、かなり家賃は抑えました。転貸粗利を抑えて、当時は仲介の方で何とかやっていました。現実はお金がないので、とにかく足りないキャッシュをプラスしていくという過程のなかで、結果40人もの出資者が積み上がったということなのだと思います。
3.今後の展開について
畑本氏:私としては姫路の駅前とはしっかり連携しておきたいと思っています。JRローカル線赤字問題がありますよね。姫路城に来ている年間数百万人のお客さんの1割でよいので、姫新線に乗ってもらい津山に行ってもらえるとよいと思っています。
広島まで抜けられるわけなので、日本に来て1回目2回目は姫路から京都、姫路から広島に新幹線で行くということでよいのですが、5回目6回目にもなると姫路から姫新線に乗って観光するのをお勧めしたいです。
広域でプロモーションをするのが一番よいのではないでしょうか。10年20年の単位で見たら廃線が更に危機的になると思いますが、私からしたらプラスになりそうな案件は、姫路城から広島原爆ドームまでのニーズをいかに北側に通らせるかということです。瀬戸内DMOでも積極的に津山を推しているので、山側のローカル線の旅をいかにプロモーションしていくかだと思います。
ローカル線周遊切符を外国人向けに売るだけでいいと思います。ツアーで来るわけではないですし、下手に作り込むとしんどくなります。
一応町のコンセプト的に最終的には美食家が集まるまちのようなラインに持っていきたいと思っています。淡口醤油発祥の町であり、醤油は日本の和食におけるかなり重要な調味料ですよね。
ハイクラスな店舗やホテルをやりたいと思っています。ただ残念ながら現状の龍野では、遠方の方に関してはあまリピートとしていないだろうと思います。
私の中でのここ(旧カネイ醤油)を見所にしたいと思っています。ここを醸造発酵に関するテーマパークにしたいです。醸造や発酵を学ぶ施設にしつつ、隣のイベントホールも使って仕掛けをしたいです。
ここに来てモノを買って、煙突を見て写真を撮って、奥に行ったらクラテラスたつのという元醤油組合本部の建物と店舗があり、そちらでも買い物をして、醤油ソフトクリーム食べて、上ったところでお城を眺める、というようなイメージです。
コンテンツソフト系をきちんとやって、レベルアップを図りたいと思っています。ただ、私はこれまでトータルでやろうとしてしまったので、私はハード側に身を引いて誰かに席を空けたいと思っています。

編委:緑葉社が永続的に物的資産を持つ会社ではないのですね。
畑本氏:最終的に緑葉社の代表は地域の方にお願いしたらいいと思っています。3年5年ぐらいのタームで、より安全度が高まったタイミングで、開発業はMMD社に全て移して、不動産管理だけで緑葉社が回っていくタームが来たらいいと思っています。
より何か地域の会社っぽくした方がいいと思っています。地域の役を担う人たちはご奉仕の人たちになっていますが、しんどいですよね。だったらエリアマネジメント会社の役員をして役員報酬をとれるようなことができるといいと思います。地域を管理するということに対してのインセンティブが発生するのですから、頑張りたくなるかなと思っています。
編委:そういう方がエリマネをやるのは珍しい。城下町なので、元々何かの商売をしていて、素地があるということでしょうか。
畑本氏:共同体意識は非常に強いので、実質機能的にエリアマネジメント的なことをしていますよね。ハードというよりもソフトですが、ハード側は、危険家屋に役所側と協議しながら勧告出すなどセーフティのところですよね。そういうことは自然としているので、それを仕事にできる方がいい。緑葉社ぐらいにまで物件数が整ってきて安全度が高まったのであれば、それで先進的な一例を作れたらおもしろいかなと思っています。それを見た他の地域も、私たちも何かできるのではと言ってくれたらいいなと思っています。
編委:でも同じエリアには緑葉社がないと。まずそこからですね。
畑本氏:そうですね。そういう意味では、私の課題としては、この後のタームとして、ひらがなのたつの市全域に対してのエリアマネジメントとか、西播磨というエリアに対してのマネジメントをどう組み立てていくのか考えなければならないと思っています。龍野小の校歌には、三木露風先生が書いた歌詞なのですが、「西播四郡の文化をばあつめて栄ゆる龍野市は」という言葉が入っています。昔から龍野には西播磨の盟主たる城下町だという意識が強いので、そういう意味では緑葉社という組織が西播磨全域のエリアマネジメントを担っていくというのは面白いかなと思っています。
