関西支部だより+ 38号(2025年1月版)
特集「都市経営とまちづくり」No.15
インタビュー記事 武部俊寛さん(ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社)
日時:2024年10月11日 場所:ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社
主催:都市計画学会関西支部編集広報委員会
趣旨:さこすて®という、地域とともに駅をつかったまちづくりに取り組まれている、ジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社の武部俊寛氏に、取り組み内容についてお聞きしました。
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さこすて®について
武部氏:さこすて®は2019年から取り組みを始めています。「Sustainable Community Station ®」の頭文字をとりました。駅舎や駅前ビルといった、いわゆる建築物を設計するジェイアール西日本コンサルタンツ株式会社は、ミッションとして、「交通拠点から交流拠点へ」「ものづくり主導からことづくり主導へ」という2つを掲げています。「駅が元気になれば、その周辺の街も元気になる」という好循環を生み出すことができる駅を作っていかないといけません。さこすて®は、地域とともに持続的な駅まちづくりを支援し地域で活用してもらえるような駅を作るというビジョンに掲げています。
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さこすて®の取り組み内容は、ローカルなまちにフォーカスしています。大きな駅であれば関与してくれる人は多いのですが、とても古い小さな駅舎があるようなローカルな街では、駅の利用者が減っていることや駅舎の老朽化が課題になっています。JR西日本が管轄する駅は、1000駅を超えています。その内、6割程度の駅が、とても古い小さな駅舎です。
近年では、駅のオペレーションは中央管理になり無人化されます。さらに、ICT化によるIC乗車券の普及などによって駅事務室や窓口が不要になります。加えて、駅舎老朽化の課題もあります。これに対して、鉄道会社は鉄道運行を行うために、安全性向上や維持管理コストの低減のため、駅舎のシンプル化(設備適正化)を実施せざるを得ない状況です。しかし、それだけの場合、券売機とタッチ式の簡易改札機があれば成立するため、極端な例だと、バス停のような駅舎となる一方、ほとんど鉄道施設としての駅舎の役割は失われます。
そこで、地域が駅と他の機能を合築させた駅舎を整備する事例も出てきました。しかし、役割に持続性がなく、場の運営者(駅守)もいないことが多く、駅という場としての価値が下がるという現状もあります。
奈良駅から一駅行ったところの京終駅の事例では、行政が駅を無償で引き取って駅舎の復元工事を実施し、観光案内所兼カフェとして、NPOさんが管理されています。NPOさんは、駅を復元工事する前の駅のビジョンを作るところから関わり、運営まで担っています。そんな熱い思いや使命感を持ったプレイヤーが存在することで、地域に駅が生かされ、単なる鉄道施設にとどまらない駅が生まれます。
我々設計会社は、これまでは建物を設計したらおわりでした。しかし、そうではなくて、建物が完成した後の運営などを見据えて地域に求められる役「割づくり」や「体制づくり」にも関わることができると考えています。役割や人がない施設を設計することは、設計者として心苦しく思います。
JR西日本グループとして、「地域共生企業」を中期経営計画に取り入れていて、沿線地域と一緒に生きていくことを目指しています。しかし、そもそも「地域共生とは何か」、「地域=行政」なのか、もっと寄り添うことが必要ではないか、ということを考えました。その中で、駅の持つ可能性を顕在化させて、価値を生み出すために、ものづくりからコトづくり主導へという使命を持つ私たちに何ができるか考えた時、10年20年先の運営も見据えて、もっと手前の段階から地域の人々と一緒に駅の役割を考えて、駅守を発掘するところから我々設計会社も関わっていけるんじゃないかと考えています。こういうところを一気通貫して具体的に取り組んでいるのが、さこすて®です。
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さこすて®の取組み
武部氏:さこすて®の取組みは、大きく3つあります。
1つ目の取組みは、調査開発です。実は、駅を活用している先駆的な事例が、全国にあります。どうすれば、そういった運営ができるのかなどを、プレイヤーやステークホルダーにヒアリングして、関係性や事業スキーム、資金、所有関係などについて調査や整理・アーカイブするため近畿大学様と共同研究しています。さらに、「さこすて®指標」を作れないかと考えています。今まで、駅の力を測るときの指標は、乗降客数しかありませんでした。しかし、その指標だと、乗降客数が少ない駅は、すごい小さい駅ということで、切り捨てられてしまいます。乗降客数と違う、地域の力みたいなものが含まれる、総合的な指針を出せるような指標を作っていこうというのが、調査開発です。
2つ目の取組みは、マッチングです。駅と人やサービスなどをつなげていく取組で、まだ道半ばの状況です。
3つ目の取組みは、事業化コーディネートです。実際の駅とまちを舞台に、色々なアプローチでの駅を活用した駅まちづくりを実践しています。地域の駅まちづくりの組織づくりや運営、企画などのコーディネーターとしての役割を担っています。
具体的な事例について、2つ紹介します。
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三輪駅の事例
武部氏:1つ目の事例は、万葉まほろば線の三輪駅です。駅ナカ物販事業を行っているグループ会社と共同で取り組んでいます。三輪という地域は、日本最古の神社といわれる大神神社や日本最初の市場が開かれたとされる惠比須神社といった歴史的価値や、酒造り、そうめんづくり、菓子作りの発祥地という文化的価値を持ちます。その一方で、青年世代の社会的な活動も活発に行われていて、活動力の高い地域だということも分かりました。三輪駅は既に無人となっていましたが、大神神社には年間600万人くらいの人が訪れるとされています。多くの方は車で来られるのですが、電車で来られる方もいらっしゃいます。例えば、初詣の時には、満員電車で駅に人があふれるので、臨時改札や臨時券売窓口をもっている、少し変わった面白い駅舎です。
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武部氏:最初は、地域の方々から信頼を得ることが難しくて、まずは駅に注目してもらおうと、我々が主体となり、三輪駅がこんなふうになったら面白いんじゃないかということを、発信して体感してもらう小さなイベント「三輪駅市場」を開催しました。2022年の大晦日から2023年の正月まで、夜通し駅を活用して、そうめんやもなかの地域事業者様とコラボして物販をしたり、駅スタンプが押せる「鉄道記念参拝券」を配ったり、温かいお茶を振る舞ったりしながら、駅で待つ時間や空間をちょっと楽しくできないかなということから取り組みました。物販の売上や、駅スタンプもたくさん押してもらったのですが、何より1番の成果は、地域の人が、JR西日本グループが、地域のために何かをしている、ということを感じてくれたことです。見てくれている人は見てくれていて、少しずつ地域の仲間が増えていくきっかけになったと思います。
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武部氏:当初はJR西日本グループが主体でしたが、ずっと我々が主体であることはできません。そこで、地域の人が自立し、「駅守」のような役割を担うプレイヤーを探していきたいと思い、いろんなところと関係性も作りながら、コアに動いてくれる方々とチームを作って取り組みました。はじめに、我々が主体で実施した三輪駅市場をきっかけに、少しずつ住民の方が参加してくださり、今では、地域の方々が主体で動いてくれています。月に一度、三輪駅地域作戦会議をしており、次は駅をどう活用するか、どんな駅とまちにしたいかといった話し合いをしています。
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作戦会議の中で、年に1回の三輪のまちなかで開催されるお祭りで、会場の一つを三輪駅にできないかということになりました。まず、「臨時券売室をビールタップに変えてビールを提供するとかどうやろ!飲んだら鉄道を使って帰るから親和性が高いはずや!」と。そこで、奈良のゴールデンラビットビールさんの出店ということになりました。「もうお店は出てくれるって言ってるから、あとはJRさんの内部整理だけやで!」というスピード感でした。(汗)
その他にも、酒造り発祥の地として、周辺の飲食事業者さんとコラボして、駅だけではなく、地域全体で盛り上げる、「うま酒三輪 新酒祭り」を行いました。
さらには、三輪駅を起終点とする体験開発ということで、駅にきて台紙をもらって、街を巡ってまた駅に戻ってもらうという、鉄道で訪れるからこそ楽しめるコンテンツとして、街中スタンプラリーを考えてくれました。イベント時だけではなくて、日常的に使えるコンテンツを作ろうと。
三輪駅やまちに関する写真展パネルを用意しました。お年寄りが若い方に昔のことを伝える場面が見られ、人と人が繋がる場だと実感したと同時に、地域にはどんな人がいるか、どんなものが求められているかが見えてきました。
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三輪では、行政発信ではなく、地域の個人個人と作戦会議をするボトムアップ型のまちづくりをしています。本来なら、行政を挟むと、まちづくり基本計画などをつくることから始めるので、実際動くには時間がかかります。そこで、我々でできることからやっていこうということで、まずは色々試しながら、地域の人々が、どれだけ駅に関われるか、可能性を探っています。それが、駅のあるべき姿、なすべきことへと発展すると思っています。地域作戦会議を始めてから一年半たった今、月に一度、定期的に駅を活用しようと地域主体で企画実践しています。一年半でここまでの関係性構築と地域の主体性ができたのはなかなかすごいと思っています。以上が、三輪での「ボトムアップ型駅まちづくりマネージメント」の取り組みです。
紀伊由良駅の事例
武部氏:もう一つの事例が、和歌山の紀伊由良駅です。紀伊由良駅は、由良町に1つしかない駅です。建築基準法制定以前の時代に国が作った駅です。行政は、「地域の皆さんと一緒に駅も使った課題解決拠点にしていきたいという想いがありつつも、どうすれば良いかわからない」ということで、我々に声がかかりました。まずは、町民の方の駅に対する機運を高めるため、ワークショップを通して、紀伊由良駅に対する理解を深めることを提案しました。さらに、さこすてネットワークを活用して、3回の勉強会を行い、4回目に、住民のみなさんと駅のこれからを考えました。このように、紀伊由良では、行政や地域に伴走しながら、ワークショップファシリテートや協議会の運営支援などを行う「地域巻き込み型駅まちづくりの行政伴走支援」を行っています。
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さこすて®の展開
武部氏:我々には、JR西日本が管轄する1000以上の駅全てに関わるのは、到底できないと考えています。そのため、現在、「さこすてトリアージ」というものを検討しています。多様な、もしくは圧倒的なコンテンツを持つ、熱量の高いキーパーソンがいるなどの地域にある駅に注目しています。
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従来から得意な分野である設計や絵を描くことに加えて、運営や人探しをプラスでできるようになれば、「駅といえばさこすて®」、「まちづくりに困ったらJR西コンサルに相談してみよう」となればいいなと思っています。
さこすて®が始まった経緯
編委:どのような経緯で、さこすて®が始まったのですか?
武部氏:2018年度の社内の開発プロポーザルがきっかけです。3年ほどやった後に、事業開発制度という、期間に縛られない制度ができました。さこすて®は、はじめての事業開発制度を活用した事例になります。
編委:新事業開発がきっかけだったのですね。社内では、さこすて®は、どのように認識されているんですか?
武部氏:社内での日常的な掲示板への投稿に加えて、「さこすてフェス」と称して、楽しく説明会をするなどしています。これらを通して、さこすて®の活動に対する社内理解を深めることにも取り組んでいます。いろんな部署の社員がたまに関われるように「さこすて応援団」という部活のようなものを立ち上げ、社内機運を高めています。その他にも、コミュニティやプレイスメイキングなどに関する本を集めた「さこすてライブラリー」を設置しています。まちライブラリーに登録しており、社員が気軽に借りられるようにしています。
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編委:こういうのをやろうと想い始めた、個人的な背景はあるんでしょうか?担当者の熱量がないとここまで行き着けないと思うので、非常に感動しました。
武部氏:個人的には、大学時代に建築設計の勉強をしていました。そのときから、「つくるだけでいいのか」という思いがありました。我々の世代は、東日本大震災をきっかけに、建築とコミュニティを考える講義も増えてきた頃です。昔ながらのかっこいい建築を作るというより、活用や持続性、運営まで考えてこそ、建築だと思っていました。大学院では、建築計画に関する研究を行いました。特に、人と建築・都市・空間の関係性や豊かさをどう測るかというところに取り組みました。そのような中、入社してからは駅を取り巻く状況に寂しさを覚えたような気がします。同時期にJR西日本グループとして「地域共生」を謳い、世の中のサステナビリティへの機運の高まりを受けて、さこすて®の取り組みが始まりました。まだローカルな地域と駅を諦めたくないという想いでしょうか…(笑)
さこすて®の位置づけ
編委:はじめにご説明いただいた課題は、JR西コンサルさんの課題だけではなく、駅を所有・管轄している、JR西日本さんの課題でもありますね。
武部氏:その通りです。JR西日本では、我々が先に言いだしたということもあって、JRと連携しながらJR西コンサルが取り組んでいます。JR西コンサルだからこそ、動きやすさというメリットがあります。
編委:やはり、JR本体が動くと、いろいろと大ごとになってしまいますよね。グループ会社の動きやすさが活かされていると思います。
武部氏:はい、JR西コンサルだからこそ、地域にも受け入れられやすいと考えています。
編委:それぞれの駅の選択のきっかけが、ステークホルダーの数やコンテンツから入っていて面白いと思いました。
ちなみに、「さこすてトリアージ」は、JR西日本の駅舎施策に関する考え方と一致しているのですか?
武部氏:いえ、このトリアージは、さこすて®独自のものです。我々の駅を見るときの物差しでもあります。ただし、取組む駅を決めるときは、JR西日本グループとしてJR本体との調整は当然行います。
編委:JR四国では、駅のシンプル化が進んでいる印象です。
武部氏:たしかに、どんどん進んでいますね。JR西日本より、大変な駅が多いのかもしれません。三輪駅のある万葉まほろば線でも、シンプル化された駅があります。その一方で、京終駅のように、地域が駅を使った事例やもあります。
さこすて®での調査研究
編委:キーパーソンがいるとかコンテンツがあるなどの調査研究は、結構長い期間をかけて行うのですか?
武部氏:三輪では三輪駅地域作戦会議が始まって1年半ぐらい経つわけですが、やっと地域のことが分かってきました。そういう意味では、時間をかけて判断することになると思います。今では自立して地域の人たちがコトを起こしてくれています。私は、企画書をまとめるだけで、地域の方が中心に取り組んでいただいています。机上の調査研究では表層しか分かりません。地域に入り込んで関係性をつくりながら調査も平行することが必要かつ、実は最も効率的かなと思います。それと、こうしたコミュニティに大事なのは、人数ではなく、キーパーソンですね。
編委:麻雀で言う手役の広がりみたいなことでしょうか。役が広いと言うか。
武部氏:同じ人数がいても、駅に興味を持ってくれないところでは、我々は関わっていけません。
編委:三輪は地域コンテンツもあり、多様な人もいて、面白い活動が起こって、そこにコンサルも行政も、後から乗っかってくるという、美しいストーリーが描かれているように思います。結果論かもしれないですが。
武部氏:みんなが、あんまり無理せず、少しずつ駅にかかわっていっていて、気づいたときには駅と街のことを考えているというような流れでした。最近は、地域作戦会議に、地元の行政の方が、プライベートで参加してくれたりしています。
編委:役所としてではなく、役所に勤めている人が、プライベートで地元住民として参加しているということですね。
武部氏:みなさん、そういう感じで参加してくれています。
編委:三輪で一番初めに地元会議をしようと言い出したのは誰なのですか?
武部氏:発端は私です。といってもゆる~く始まったのですが、地元の方々とやりとりしていく中で提案をしたところ、「おもろいな」と賛成していただきました。最初は、飲みながら未来について語る感じで設定したのですが、今では住民の方々が設定して、私に来てくださいねと声をかけてくださっています。
編委:動き始めたら動けるけれど。きっかけがないと動き方がわからない。だから、最初の一押しが必要なのですね。
武部氏:きっかけづくりを、ずっとしているイメージです。
編委:行政から委託で受ける地元合意形成のワークショップなどのノウハウをうまく使っているとも言えますね。それをクライアントではなく、自社の資源でやっていんですね。コンサルさんの本業スキルをすごく活かされていると思いました。
武部氏:そこは、JR西日本からも、信頼をいただいけるところだと思います。我々は、駅の中で、触ってはいけない機械なども把握しているので、安全性が担保できない取り組みは止めることができるし、地域から出たアイデアに専門的な視点からアドバイスすることもできます。まずは我々のスキルアップや実績づくりとして取り組んでいます。
編委:両者の言葉が分かるというのが、大事ですね。地元からも、JR社内の鉄道の仕組みやレギュレーションもわかる、その立ち位置にいるというのは大きいですね。
武部氏:そうですね。由良町の事例では、小さい自治体規模で町に一つしかない駅をどうしようとなった時、誰も動き方がわかりませんでした。我々が、「JR西日本が言っているのはこういうことで、こういうことをしたらいいと思います」と翻訳することが、町の方々に役立っていると言って頂いています。
編委:間をつなぐ仕事は、すごく大事ですね。例えばJR西日本さん本体と行政が話すと、お互い、立場上議論が硬直化してしまいがちです。鉄道側のコンサルさんが間に入るという形は、いままでにありそうでなかった形かなと思います。しかも、JR西コンサルは、JR西日本から委託を受けている訳ではないので、独立した判断が可能になりますね。
武部氏:そうですね。その上でJR西日本グループとして鉄道会社にも地元自治体や地域にもwin-winな地域共生とは何なのかというのを、解像度高く提示できるところが大きいかと思います。
編委:さこすて®の進め方で、JR西日本さんと、方針のすり合わせはされているのですか?
武部氏:もちろんです。我々は、JR西日本のグループですのでセンシティブな話も含めて、しっかりと話し合いをしています。
編委:コーディネーター役をして、行政から業務受託するための営業活動の一環というような立ち位置でしょうか?
武部氏:そういう部分もあると思います。しかし、受注することより、その後に紐づく計画・設計業務を受注できるような信頼関係の構築や企業価値向上的な立ち位置でもあると考えています。会社としても、必ずしも「さこすて®事業単体で採算を取れ」ということにはなっていません。しかし、最近は採用試験でもさこすて®を魅力に感じて入社を希望してくれる事例が非常に増えています。それはお金に変えられない価値だと思っています。
編委:さこすて®の取り組みは、「かっこいい絵を描く」こととは違うのかもしれませんが、どちらも職人芸と言えそうですね。
さこすて・トリアージ
編委:1000以上ある駅で、どれくらいの感覚で、さこすて®の取り組みが進んでいくのか、見通しはあるのでしょうか?数のイメージをざっくりお聞きしたいです。
武部氏:さこすて®のホームページに、私の地元の駅でも何かしたいですという声をいただいていています。それを合わせて、10いかないくらいのイメージです。それでも、お問い合わせ頂いた方で、「今岡山に住んでるけど、地元島根の駅をどうにかしたい」という人がいたら、岡山まで話を聞きに行ったりしています。
編委:まだ広がっている最中ですもんね。県や路線といったエリア単位で1つずつでも事例が増えていけば、それを真似したり応用が効いたりしそうです。
武部氏:そうですね。昨年の由良の事例を経て、周辺の地域や自治体からお声がけいただくこともあります。
編委:これで和歌山は横展開していけそうですね。和歌山での主要な鉄道JRしかありませんので。
武部氏:駅の活用事例はたくさんあります。例えば、山口県のJR三見駅では、移住施策の一環として、駅でお試し暮らしができるということをしています。移住を目的としているので、2週間以上の滞在が必要です。駅の待合所の隣にある、昔は事務室だったところを改装して、作られています。
編委:駅の可能性はたくさんあるのですね。場所も認知度もバリエーションがあります。
武部氏:いろんな実現方法のスキームがあります。そのため、一般化はできません。
編委:さこすて®の取り組みは、10何年後に、JRさんにとって大きいものになってきそうです。その一方で、ローカル線の問題もあります。地域共生として拠点化しても、鉄道が維持できるほどの乗降客数には至りません。仮に廃線やBRT化していったとしても、駅という空間がちゃんと地域の拠点として、街自体に維持できる仕掛けとして作っていけるかどうか、重要な観点だと思います。
武部氏:究極は、その通りだと思います。電車が来なくなっても、町の拠点としては使われるような駅ですよね。圧倒的に利用が見込めない過疎区域は、もともと我々も関わって行けないというのがあるので。
編委:鉄道が維持して、残るところにどう付加価値をつけるかですね。
武部氏:さっきのトリアージの話のように、ちょっと何かを足せば活用される駅をみつけて、そこを押し上げていかないとと思っています。
さこすて指標
編委:それに関連してお伺いしたいのですが、さこすて指標では具体的にどのような駅になるとよいと考えてるのでしょうか?
武部氏:現時点で、これという共通認識がある訳ではありません。いままさに開発途中ですが、地域課題に対して活躍できたり、個人の考えを自己実現できる駅となり得るかが重要と考えています。例えば、ローカル線の超高齢化している地域では、なかなか外に出ない高齢者が多いです。そこで、孤独死を1件でも減らすというのも一つの指標になると考えています。毎日駅に来て、そこでお茶でもして帰るような、まずは街に出る仕掛けができたらなと思っています。また、免許返納などで交通弱者になってしまった人に注目して、駅が鉄道以外の交通の拠点になって、簡単に移動できたり、ライドシェアや二次交通など鉄道に限らずさまざまな移動手段を提供できないかなどもあります。他にも、買い物難民をへらすなど、そういったものも一つの指標になるのではと思ってます。
しかし、イレギュラーな取り組みも多いです。例えば、山口の阿川という駅では、列車が災害でずっと止まっていました。そうなると、普通は誰も駅に来ないはずですよね。しかし、駅を作り替えて役割を与えたところ、列車が来ないのに、駅に車や自転車で人が来るようになったのです。このような面白い事例もあるので、さまざまな答えを探っていきたいです。
編委:そのあたりが揃ってくると、行政との交渉もやりやすくなりそうですね。
武部氏:そうですね。行政の示す施策の、「ここのポイントにあたる」というような説明ができれば、行政が駅を活用しやすくなると思っています。
編委:いろんな要素を複合的に数字として見ることができたら、さこすて®が、豊かさや幸せに寄与していると言えそうですね。普通にやるとアンケートなどになってしまいますものね。
編委:人数がたくさんいるまちなかで調査するのと違い、田舎は人数が少なく個別性が高いので、調査は難しいと思います。しかし、それこそが、本当に大事だろうと思います。
武部氏:その役割を担うのが駅だと思うので、大学と共同研究を継続している段階です。
駅の価値
編委:昔は、駅や郵便局って絶対になくならないものだと思っていましたよね。それらが、将来なくなるかもしれない、そしてまさに今、なくなりつつあるというのは、人口減少問題と密接に絡んでいますね。当たり前は、決して当たり前でないというか。もともと、作るときに「使う」から始まっていなくて、箱を作って使うという順序になってしまっています。さこすて®は、逆のアプローチをしていて、良い事例と思います。
武部氏:ありがとうございます。さこすて®のミッションに掲げてているコトづくり主導がまさにそこに課題感をもっています。ちなみに、郵便局は、法律で必要な局数(密度)などが規定されていると聞いた事があります。
編委:少し話がそれますが、ヨーロッパでは、そもそも公共交通は、国や自治体が運営するべきと考えるのが一般的です。日本のように、民営化しているのは珍しいので、どうなんだろうと思いました。
編委:日本とヨーロッパでは交通権(移動権)に対する考え方が違いますよね。ヨーロッパでは人が移動するのは基本的人権の一部なので、国家や行政が保障しないといけないということで、強い公共性を求められています。その一方、日本の鉄道は、明治の時に儲けの対象でもありました。そのため、独立採算で、公共の責任をあまり持たせないようにやってきました。その後、軍事施設の関係で国営化が進みましたが、国鉄時代を経て民営化を余儀なくされました。
武部氏:だからこそ、駅に、新しい役割を見出さなければなりません。
編委:私鉄は、収益が見込める場所にあることが多い、というのが、JR西日本さんとの違いでしょうか?
武部氏:確かに成り立ちの背景が違うところは大いにあると思いいます。しかし、さこすて®の話は、関西や関東の私鉄各社にも共有しています。例えば、関西の五大私鉄であっても、(本線はよくても)支線やグループ鉄道などではどんどん無人化しています。また、働き手の減少という問題もあり、無人化せざるを得ないけれど、地域との関係性が希薄になって、鉄道離れが進んでしまうことも危惧されています。我々も一緒に、鉄道ができることを考えていきたいと思っています。
編委:さこすて®の取組は、他の鉄道会社さんへの波及も大きいのですね。
武部氏:そうですね。
編委:さこすて®の取組は、全国に波及すると、横のネットワークの構築など、色々とできそうです。
武部氏:JR西コンサルとしては、駅を持っている主体は、みな等しく同志と思っています。
地域作戦会議
編委:マッチングやプレイヤー育成は、汎用性が高そうです。基本的には駅線圏内の地域の方に頑張ってもらっているのでしょうか?
武部氏:三輪の地域作戦会議は、駅線圏内に住まれている方がメインですが、外部の方が関わってはダメかというと、そういうわけではありません。枠組みは設けていませんし、関係人口的な切り口でも、関わりを持ってくれているという感じです。
編委:なぜでしょうか?
武部氏:三輪は大神神社もあるので、そのつながりで、年に1回は訪れるというような人が、結構いらっしゃいます。
編委:なるほど。
武部氏:日本で初めての神社ということで、海外の人も多く訪れます。そういう地元の人じゃない利用者が多いという三輪の側面もあり、昔から色んな人が混ざり合っていました。
編委:超強力な集客施設があるから、人はやってくるということですね。そこに鉄道も惹かれたんでしょうね。
武部氏:初詣という文化も、鉄道が発祥なんです。年末年始のお客さんがいないときの振興策として始めたのです。
編委:若い人は、地元の方ですか?
武部氏:そうですね、地元の方も、全国から来てくださっている方もいます。
最後に
編委:最後に、何か伝えたいメッセージはありますでしょうか?
武部氏:鉄道は、色んなインフラの中で、一番初めに危機を迎えていると思います。今後、鉄道に限らずいろんなインフラで、管理する人や、関わる人も減っていくという、鉄道と同じような問題が起こり得ます。駅が一番初めに転換期に来たので、我々はいろんな解決を模索しています。だから、他のインフラでもその時がきたら、我々の取組で成功したことを参考にしてほしいと思っています。
また、行政の支援ってすごく大事なのですが、新しく作ることにすごくお金をあてがちで、管理していくようなところにはお金が回りません。水道橋がこわれた事例がありましたが、つくるまではお金が出るけど、つくってからの維持や運営にはなかなか理解を示してもらえません。各駅で頑張ってくれてる人たちに、少しでもお金を払うなり、税を減らすなり、何かしら行政としてできるランニングの部分への補助をいただけたらと思います。
編委:行政の立場としても、ランニングの予算はつきにくいです。作るときは国費も得やすいし、目に見えるものを作るから説明もしやすい。
武部氏:日本が、ランニングに、適切なお金が出せる国になっていけば良いなと思います。ほんの少しの金額でもきっかけを作ることができれば大きく変わるので、そういうところを伝えていきたいです。