生駒市長・小紫雅史氏に聞く 都市経営とまちづくり 前編
関西支部だより+ 36号(2021年11月版) 特集「都市経営とまちづくり」No.1
インタビュー記事生駒市長・小紫雅史さん
日時:2021年9月29日 場所:オンライン
主催:都市計画学会関西支部編集広報委員会
趣旨:特集企画「リーダーに聞く都市経営とまちづくり」の第1回は、自治体3.0や複合型コミュニティづくりで知られる奈良県生駒市長・小紫雅史氏に、生駒市のまちづくりの課題やビジョン・ミッション・バリューを中心にお話を伺いました。(前編)
1 生駒市のまちづくり
次世代住宅都市へ
小紫市長:生駒市はベットタウンを卒業して、新しい住宅都市になろうということに力を入れています。生駒市は、大阪と奈良と京都の境界にあり、さまざまな場所に行きやすい町です。その裏返しとして県外就業率が非常に高く、昼間になかなか現役世代が町にいません。典型的なベットタウンとなり、また、非常に教育熱心な町でもあります。
生駒市のまちづくりの基本的な考え方は「ワークライフコミュニティ」の融合です。生駒市はベッドタウンだったという話をしました。ただ寝に帰るだけのベッドタウンを卒業して、そこからワーク(仕事)とライフ(家庭)、さらにはコミュニティ(地域社会)が連関し、それらのいいバランスがとれた町を目指したいと考えています。例えば仕事を頑張れば、地域社会の中でコミュニティビジネスが生まれたり、地域社会と家庭をつなげることで、地域の力を借りて子育てや介護したり、となるように、多様なシナジーが生まれるという意味を込めて、「DiverCity(次世代住宅都市)」と呼んでいます。
自治体3.0
生駒市のまちづくりのビジョン・ミッション、それを支える職員のバリューについてお話したいと思います。行政・公務員に求められる役割が、10年ぐらい前から相当変わってきていると思います。行政課題が複雑化・多様化してきて、今いる職員だけでは対処しきれない課題も出てきています。そこで、外部の人間も取り入れていくようになってきました。福祉は特にそうで、地域包括ケアをつくる場合、生駒市のおよそ8割の部局が何らかの関連をもつことになります。一方で行政資源は減っているため、行政だけで全てのニーズに対応できないということになります。そこで、行政でなければできない事は頑張って取り組むので、行政でなくてもできる、市民の皆さんがやった方がいいことは、市民がやるように生駒市ではお願いをしています。
今、受け皿になる市民の力が、非常に大きくなってきています。まず、リタイア世代や主婦層があります。サードプレイスとしての副業に取り組む現役世代もあります。また、学生も実学志向で、インターンや地域活動などを非常に熱心に取り組む動きがあります。企業も社会貢献というだけではなく、SDGsへのアプローチ、企業の収益など、地に足のついた形で社会貢献を行う動きがあります。
こうした動きがうまく連携できると、このような主体の方々のプラスにもなり、我々行政のプラスにもなると思っています。そこで、1つの解として自治体3.0が浮かび上がってきます。すべてを行政が担うというのが自治体2.0の考え方だとすれば、市民と共に汗をかいて協創していくのが自治体3.0の考え方です。そのコンセプトは、町を楽しむ、みんなの課題はみんなで解決する、というものです。
結果としての転入増加は狙っていますが、市民がいかに定住したいと思えるかが重要だと思っています。
2 生駒市のビジョン・ミッション・バリュー
また、私たちは、生駒市のビジョンを自分らしく輝くステージと掲げています。生駒市自体をステージとして考え、あなたがやりたいことを生駒市というステージを使って存分に実現してください、その思いを行政が全力で応援する、ということです。
行政が行うべき役割は、この町で暮らす価値を共に作るということです。住む・働くなど日常生活全般でこの町に暮らす価値を作っていきたいと思っています。市内の人、市外の人関わらず、楽しみながら一緒に創っていこうとするのがこのミッションです。
そしてビジョンやミッションを達成するために、市役所の職員たちは、生駒に対する愛、色々な人同士をつなぐ人間力、そしてより良い生駒市にしていこうとする変革精神を持ってほしいと考えています。これらをバリューとして掲げています。
基本的には先ほど申し上げた自治体3.0や地域コミュニティに関連して、生駒市民がワークショップ等で発信した意見を繋いだり、応援したりして、まちづくりにつなげられるよう取り組んでいます。地域への関わりをつくっていくと、市民自身も楽しいし、それが仕事につながるかもしれないということから、現役世代にアプローチしています。なるべく単なるボランティアやイベントだけではなくて、創業支援へのつながりも考えています。
3 生駒市都市計画マスタープラン
生駒市都市計画マスタープランでは、「住まいと暮らしをつくる戦略ストーリー」を立てています。市民や事業者の様々な人とつながりたい、地域のことをもっと知ってほしいといった意向に対して、「行政も応援するので、やってみてください」というのが自治体3.0の考え方なのですが、今ある空間や場所を生かせるように、行政が再整備したり、市民の方々がリノベーションをしたりすることで、市民が自由に活動やまちづくりをしていく場所、思いを形にするための空間や機会を提供できると思っています。
例えば、駅周辺等の利便性の高いエリアにおいて、空き店舗を活用して女性の創業支援をしたり、駅周辺のマンションの中に、市民や通行する人たちとのコミュニケーションの場所をつくったり。また、パブリックスペースを利用して都市的な空間の中にも癒しをつくったり、そのようなところでコミュニケーションが生まれると素敵だと思います。このような活動をはぐくむ仕掛けが大事です。「受動」から「能動」へ、「消費」から「創る」へ変えていくことが大事です。
生駒市における出会いと交流のイメージは、都市的なところと里山的なところの間にあるものをイメージしています。リノベーションによる空き家を活用した民泊などで多様な暮らし方を提供したり、流通にのらないような空き家を中心に、建築士や不動産会社も入っているプラットフォームの運営に取り組んでいます。自分らしさを大切にする住まいと暮らしをめざし、例えばオフィスが1階で2階がリビングとか、そこでカフェを運営するような人もいるかもしれません。実際に、物件の売買も進んでいます。
また、「公園にいこーえん」では、はじめは公園に遊びに行くという取り組みからスタートしたのですが、今となっては夏祭りがあったり、小中学生が看板を作ったり、素晴らしい発展を見せています。場づくりというのは無限の可能性を持っていると感じさせられます。
今まで住むという事しかなかったニュータウンが、このような取り組みによって、仕事の場にもなります。オールドニュータウンの新しい形になっていけると思います。それが複合型コミュニティというところまでつながっていくと、1つのモデルができると考えています。
また、生駒市の田園があるようなところに、移住してきたアーティストの方、古民家をリノベーションして野菜を育てている方もいますし、まちづくりの課題と市民の生活に結びつく農業をうまくマッチングさせていけば、様々な面でプラスになっていくと思います。
そして、創造性を育む住まいや暮らしは、奈良先端科学技術大学院大学との連携によって、スマートシティー、スマートライフといったことまでつなげて考えていくことができると考えています。市民力と連動したICTやAIの活用という意味を込めて、生駒市では手触り感、人の温かみのあるスマートシティーという言い方をしています。
<生駒市長・小紫雅史氏に聞く 都市経営とまちづくり 後編> につづく
https://pub.cpij-kansai.org/komurasaki-interview-2/