生駒市長・小紫雅史氏に聞く 都市経営とまちづくり 後編
関西支部だより+ 36号(2021年11月版) 特集「都市経営とまちづくり」No.2
インタビュー記事生駒市長・小紫雅史さん
日時:2021年9月29日 場所:オンライン
主催:都市計画学会関西支部編集広報委員会
趣旨:特集企画「リーダーに聞く都市経営とまちづくり」の第1回は、自治体3.0や複合型コミュニティづくりで知られる奈良県生駒市長・小紫雅史氏に、100の複合型コミュニティづくりを中心にお話を伺いました。(後編)
<生駒市長・小紫雅史氏に聞く 都市経営とまちづくり 前編> から読む
https://pub.cpij-kansai.org/komurasaki-interview-1/
4 100の複合型コミュニティづくり
小紫市長:生駒市で取り組んでいる複合型コミュニティづくりのお話しをします。コミュニティづくりのポイントは、歩いて行ける場所から考えるということです。もともと生駒市には高齢者の方のサロンが市内でも100カ所近くありました。これらは全て市民の方々のボランティアによるもので、体操教室を行ったり、おしゃべりをしたりお茶飲んだりできる場でした。その100カ所を交流の拠点として活用することで、これからの生駒市の魅力をつくっていくことができるのではないかという発想です。
私もこのようなサロンに参加しましたが、1番多くいただいたのが、移動を支援してほしいという声です。移動支援というとコミュニティバスなどが思い浮かびます。それも1つの方法ではありますが、それだけでは抜本的な解決にはならないと考え、逆転の発想で、サロンが開催されるような場所を、高齢の方でも10分以内で歩いていくことができる場所に配置することを考えました。そこで、体操教室だけではなく、買い物ができたり、一緒にご飯を食べたり、そういったことまでやっていこうと考えました。つまり、もともとは移動支援から始まった考え方で、体操教室や軽いスポーツのサロンをやるところからスタートしています。
というのも、人数としても、少ない場所で10~15名、多い場所では100名近くいますので、大きなビジネスチャンスの場にもなります。ここに来ている人たちの中には遠くまで買い物に行くのが大変な方もいらっしゃるので、近くの農家の方などが朝採れた野菜を持ってくると、大変喜ばれます。市民も農家も双方にとって嬉しいことです。そして買い物支援が加わりました。また、スーパーの移動販売車もきています。
お年寄りが誰かを応援する側にも回ることが大事です。例えば、余った野菜や食料、使わなくなった本や家具、食器など、それぞれが持っている資源を出し合ってみんなで使おうと。そのような動きがコミュニティづくりのきっかけとなります。このようなつながりを、アイデア次第では様々なところで生み出すことができます。基本的な発想としては、お年寄りや子供たちを社会的弱者として支援する対象とするのではなく、みんなで汗をかくという関係性が目指すところです。誰1人としてお客さんにしないし、だからこそ信頼して誰かを頼れるのです。
ここまで述べたように、生駒市は地域の力で、地域を良くしていこうとしています。ただ、オールドタウン化しつつあるニュータウンに子育て世代が流入してきているかというと、まだその段階まではたどり着いていません。だからもうワンステップ何かする必要があると感じています。コミュニティ施策はいろいろやっていますが、子育て世代が空き家に入ってきにくいという壁をどうやって越えていくのかが1番の課題です。オールドタウン化しつつあるニュータウンを、もう一度再生するモデルをつくり出したいと考えています。その1つの方法として、現役世代も子育て世代も、様々なコミュニティや地域に関心を持ってもらうことが大切だと思います。
今まで大阪で働いている人は、生駒市に対して興味のない人がほとんどでしたが、コロナでテレワークが進み、否が応でも家で過ごす時間が長くなっている人は、ご飯を地域で食べたり、いつも歩いていた通勤道をお年寄りがきれいにしてくれていたことに気付いたりして、現役世代の目が地域に少しでも向くようになったのは、プラスだと思っています。現役世代は、音楽や本、子育てなどを通じた地域活動が接点になると思います。また、こういう町にしたい、こういう働き方がしたい、という思いを実現する際に、行政が力を貸していくことで、結果としてまちづくりにもつながります。こうしたテーマ型の取り組みと、地縁型の取り組みがうまく噛み合って行くと、100のコミュニティもどんどん魅力的なものになっていくと考えています。
編委:地域に眠っている資源を、様々なアイデアを出してうまく活用していて、特に空間資源とソフトの仕組みの組み合わせにさまざまな工夫やアイデアが盛り込まれていることが分かりました。どのような都市経営戦略に基づいて進められているのですか。
小紫市長:今、生駒市の今後のまちづくりの重点方針のようなものをつくっています。重点方針に沿っているものであれば、お金や人、組織の動きやすさの3つの面で主に支援します。昨年からこの方向性は出していますが、今年からはその実現性を高めていきたいと思っています。
例えば、もったいない公共資源として公園と学校があります。近年、文科省がコミュニティスクールということを言っていますが、コミュニティスクールとは、地域の人の力を使って子供たちに何かしてもらうものだと思っている人が圧倒的に多くなります。しかし、それは完全な理解ではなく、学校という場を拠点として地域の活性化をしていくというものだと思います。私は、学校は様々な施設が充実している最強の公共施設だと考えています。それなのに夜も土日も全く使われてない本当にもったいない公共施設なので、セキュリティはもちろんきちんとした上で、何とか学校を開放してほしいと交渉しています。
公園も、とても良い場所にあるのに、何もできないような公園がたくさんありますが、そういったしがらみは解きほぐしていけばよいと思っております。ここも強く主張を続け、少しずつ動きが出てきはじめています。「公園にいこーえん」も予算のかからない、近隣住民に迷惑をかけない範囲で遊ぶイベントです。そこはもちろん遊びの場ですが、同時に親同士のコミュニケーションの場でもあるし、お年寄りが若い人たちと触れ合う場でもあります。ただの遊び場としてだけではなく、新しいコミュニティやイベントが生まれていくものだと思います。
また、100のコミュニティも、人が集まらないとビジネスのチャンスにもならないので、人が集まるコンテンツをつくっていかなければなりません。ただ動員するのではなく、自然と人が集まる仕組みをつくりたいと考えています。
編委:理事者として、行政の縦割りの難しさも実感されていると思います。どのように克服されているのですか。
小紫市長:コミュニティづくりは、市民活動推進課が所管していますが、そこだけでできるはずがなく、様々な要素が入っているので、各課には関係のない課はないということを伝えて、役に立ちそうな事があればどんどん出してほしいと言っています。また、生駒市は中途人材採用にも力を入れています。どういう人を募集するかを決めていく中で、ここまで申し上げたような生駒市のまちづくりをプラスにできるかどうかに着目しています。
編委:市民協働を促していく中で、職員の方々に市長としてどういうマインド、市民との近い関係性を求めているのかについて伺いたいです。能動的な市民の方々が表出しやすい環境づくりが行われてきたのだと思いました。
小紫市長:熱心に事業者との公民連携や地域の協力を進めようとすれば、反対したり、足を引っ張る人も出てきます。そういう人から職員や市民を守り、時に汗をかきながら、まちづくりを進めてきました。
能動的な市民の方々が表出しやすいというご評価は、とてもありがたい言葉です。面白い人はどの地域にも絶対いると思うのですが、それを見逃さないようにしています。そういう人を見つけたら、すぐに会いに行って、会話をして、そういう職員を増やしていきたいと思っています。また、そういうことを楽しいと思ってやってくれる職員を雇いたいと思っています。地域の人に可愛がってもらい、一緒にやりたいと思わせることができるような職員ですね。
編委:今おっしゃっていただいた市長のポリシーの中で、職員の方々のポストの責務は果たした上で、個人力を高めて市民の方々と向き合ってほしいという考え方だと理解しました。
小紫市長:地域に出ていくことがない課はないと思うので、市役所にいるだけでは十分な仕事はできないということは、常日頃言っています。それもあって、最近は職員も地域に出ていく習慣がつき始めています。一番現場に近い市役所の職員が地域に飛び出せないというのは、医者が医師免許を持っているのに診察しないようなものです。やはり職員が1番磨くべきところは、地域にどんどん出て行って、地域にある課題を多く知っているとか、地域の財産になる市民を知っているとか、そういう人たちとコミュニケーションをとってプロジェクトを具体化した経験があるとか、そういったところだと思います。そのため、副業も認めています。
編委:自治体と民間の立場の違いや、世代の違いによって、やろうとする方向性に解離が生まれそうな場合もある気がするのですが、そのあたりの状況をお聞きしたいです。
小紫市長:今職員と議論をしているポイントはまさにそこです。これからのまちづくりでは現役世代もターゲットにしていかなければならないと思っています。同じまちづくりにコミットするという点でも、やはり世代によって視点が異なるように感じています。シニア世代は地域貢献したいという思いが強い一方、現役世代は自分がやりたいことを一緒にやる仲間を探していたり、やりたいことをやる場所を探していたり、というスタンスだと思います。
創業という点では、ビジネスについて知識を持っているリタイアされた方よりも、若い女性の方が創業のハードルを低く考えてくれていそうです。
そして、先ほどの指摘の解決策としては、やはり縦と横をつなぐということだと思います。地域の活動をやってくれている方は、やはり高齢者の方が多いです。そこに何かやりたいことがあって、それを形にしている若い方というのが入ってくることで、地域性が高い人とテーマ性が高い人を、うまく結びつけていくことです。
また生駒市での活動は、ボランティアベースのものが多かったのですが、これから公民連携も含め、ビジネスベースでの活動をしていきたいと思っています。地元でビジネスを切り口にして、何かやりたいことを実現していくような人を増やすことで、町にとってもプラスになっていくと思っています。
本記事のインタビュイーは、生駒市長・小紫雅史氏でした。ありがとうございました。