関西支部だより+ 37号(2024年3月版)
特集「都市経営とまちづくり」No.11
インタビュー記事柏木洸一さん(尼崎市都市整備局)、白崎友朗さん(尼崎市都市整備局)
日時:2023年12月21日 場所:さんとしょ~さんわにあるみんなのとしょかん~
主催:都市計画学会関西支部編集広報委員会
趣旨:尼崎市出屋敷において民間寄付による駅前インフラ整備・維持管理の新たなスキームについて経緯や効果についてお話を伺いました。
民間寄付が実現するまでの経緯
柏木氏:現在の出屋敷の駅前広場は民間の方の寄付によってきれいに再整備されています。かつての駅前広場はベンチもなく、公園こそありますが木があるだけの寂しい空間でした。寄付のきっかけについてですが、寄付者の方が市内各所で介護事業を展開されていたところ、ご自身に縁のある出屋敷に新たにもう1箇所事業所を設けることになったことがはじまりです。駅前にサービス付き高齢者住宅や飲食店舗を建てるにあたり、「これまでも清掃活動をしてきたが、もっときれいで住みたい街にしたい」と思ったそうです。駅前のイメージをもっと良くしたいと。そこから、有志による駅前広場の清掃活動が拡大していきました。清掃には市の職員も加わり、まちを良くしたいという気持ちで一緒に清掃に取り組みました。清掃活動はお互いの街への想いを伝え合ういい機会になりました。しかし、巨木化した木に集まるムクドリの糞害など清掃では限界があることを痛感しました。そこから、寄付での再整備の話が具体化してきました。
寄付の申し出を受けてからの動き方
柏木氏:寄付者の方が駅前の空間をよくするために、地域の皆さんの意見を聞きたいということで、意見交換の場を持つことになり、市も参加しました。そこでは、地域住民もきれいな駅前広場を望んでいることが分かりました。現在の駅前広場は整備から約30年が経っていますが、それでも市が所有する駅前広場の中では新しい方です。つまり、駅前広場の再整備の優先順位は低かったということです。
柏木氏:寄付金があれば駅前広場の再整備が可能となります。しかし、現金寄付であると圧倒的に事業開始までの期間が長くなるという課題があります。そこで、寄付者から駅前広場を自ら整備して「現物で寄付する」ことはできないのかと提案いただきました。道路法24条にもとづき第三者工事という扱いであれば対応できるのですが、駅前広場の公園を現物で寄付いただくということは難しいのではないかと思っていました。過去の事例を調べていると、たまたま尼崎市の事例で、過去にOBの市職員が退職金を使って公園を整備した実績があることが分かりました。
編委:OB職員が事例をつくっていてくれたからこそ可能になったわけですね。偶然ですね。
柏木氏:工事中は、設置管理許可で公園をつくり、許可後に現物でいただくという特殊な条件のもと動きました。なので、原状復旧の条件は削除し、施工前に協議するなどの工夫を行っています。整備イメージの共有から工事までの期間も非常にタイトで、8月から約1ヶ月間で調整し、すぐに工事を迎えました。。
編委:行政によるスピード感のある対応があったからこそ、現物による寄付が実現したとも言えますね。
編委:寄付者の方にとっては道路と公園を自ら整備し市に譲渡するということで、それらは寄付金扱いになるということですか。
柏木氏:そうです。今回は、これまでお世話になり今後も事業を続けるこの街に何か貢献したいという思いがかなり強かったからこそ、このような大規模なものが実現できたと思っています。しかし、自分の住む街働く街への寄付が今後もありえるのではないでしょうか。
編委:もし企業が同様のことをしたいとなれば、CSRにもなりますね。
柏木氏:自分の故郷に自己投資するという仕組みが今ないのです。
編委:調整の段階で具体的に一番苦労したことは?
柏木氏:駅前広場を寄付で再整備してもらうという話を地域の方にご納得いただくことに時間がかかりました。要は、地域の人にとっては自分たちの馴染みの場所が急に変わってしまう、みたいに思えるわけです。そのような意見に対して、行政としても最大限調整を行いました。例えば、図面の調整もしましたし、広場やベンチが欲しいですかといった聞き取りを自らして、寄付者に伝えるようなこともしました。そこを寄付者自らが負担すると対立構造になりうまくいきませんから。
編委:なるほど。寄付者がいても調整役がいないとそれは実現しないですもんね。大切な役回りと言えます。
民間の寄付による駅前広場だからこその効果
柏木氏:現在の駅前広場の使われ方ですが、寄付者の方が知り合いのアパレル経営者の方と「ぐるり」という無料の服交換会のイベントを月一回されるなど、にぎわいを生み出すような使い方をされています。もともとの駅前広場は、地域のイベントが年一回開催される程度だったのが、月一回もイベントが実施され多くの人が訪れるようになったのです。イベントでは、地域のおばあちゃんたちが 「家にいらんもんいっぱいあるから持ってきてええか」と言って服を置いていってくれたり、「この服ええから持って帰るわ」というようなこともあって、仲は深まっています。自分の店の前にポスターも飾ってくれています。
柏木氏:また、私の所属する部署は公園部署ではないのですが、オンライン相談窓口として、公園の使用許可の相談や申請書を出せるような仕組みを作りました。
編委:民間による現物寄付だからこその空間的特徴はありますか?
柏木氏:行政なら絶対しないであろうようなデザインをしています。例えば、植栽があるのですが、段もなければ囲いもないフラットなデザインになっています。行政の場合は、管理のために必ず段や囲いをつけて土がはみ出ないようにします。あとは、植栽の樹種も多様になっています。四季の移ろいが感じられるようになっています。行政の場合は、清掃等に人員がかかるためこのようなことは普通しません。
編委:実現した理由として、寄付者の方が清掃などの管理をするという前提があったからですか。
柏木氏:そうです。寄付者の方と、維持管理協定もしています。私もなぜここまでやってもらえるのかなと思い、聞いてみると、サービス付き高齢者向け住宅や飲食業を運営しているので清掃員も施設で雇っていますし、植栽の剪定も施設と一緒に業者に依頼しているので一体で管理できるとの回答をいただきました。ですので、尼崎市から維持管理費を支払わなくとも、たいへん質の良い維持管理をしていただいています。寄付者の方にとっては、駅前が綺麗になることは、街の人だけでなく、自分たちの事業やお客様にとっても意味あることなんだと思います。そういう方は実は結構いらっしゃるのではないかと思っています。
編委:駅前広場に限らず、民間事業者と連携した公共空間整備は可能性がありそうですね。特に地元企業や地元での展開意向のある事業者が寄付などの形で貢献するための受け入れの仕組みづくりが課題です。出屋敷においては市職員の方のスピード感ある対応や調整力によって実現に至りましたが、せっかくの申し出があってもとん挫している地域もありそうです。出屋敷の事例をもとに仕組みを検討できるとよいですね。ありがとうございました。