都市課題の解決に資する農園とその整備方法

Vol.37寄稿関西支部だより
関西支部だより+ 38号(2024年12月版)
特集「都市経営とまちづくり」No.14

兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科/淡路景観園芸学校

准教授 新保奈穂美

都市の課題に対応してきた農園

 都市にみられるさまざまな農園は、歴史上、各都市の問題に対応して多くの場合住民により作られてきました。たとえば「クラインガルテン」と呼ばれる小屋付き貸農園は、ドイツにおいて産業革命後の過密で不衛生な都市の住環境を改善し、健康的な暮らしをもたらすものとして当時の市街地縁辺部につくられました。当初は正式な土地利用として認められていなかったものの、第一次世界大戦の食料難で貴重な食料供給源となったことから、正式にその存在が認められることとなりました。1970年代の米国のニューヨーク市・マンハッタンの住宅地でも、経済危機のなかで放棄され治安悪化の種となっていた公有の空き地が、リズ・クリスティーという女性とその仲間により緑化され、地域住民が楽しめる都市型農園の一種、コミュニティガーデンとなりました。のちにこの公有地は正式に月額1ドルでガーデンのために貸与されることになりました。そして、他の空き地でもNPO等がコミュニティガーデンをつくれるよう支援する「グリーンサム制度」がつくられました。

 日本でも、農地を区画貸しの農園とする「市民農園」が所有者が農業を営まなくなった/営めなくなった農地の活用方法として1960年代ごろに誕生しました。こちらも初めは本来違法の利用を許容する形でしたが、徐々にその意義が認められたこと、都市開発需要が落ち着いたことから、1990年ごろに正式に関連法制度が整備されました。農地保全・土地活用の側面が高く、耕作放棄地を出さない方策として、そして都市住民のレクリエーション需要を満たすため人気になっていきました。2000年代以降はさらに農地だけでなく、人口減少や都市開発の鈍化に伴って生じるさまざまな空き地でコミュニティガーデンがつくられることも多くなっています。コミュニティガーデンは土地活用のほか、高齢者の居場所づくりや食育などの役割も担ってきました。

 近年ではコロナ禍による食料不安や、猛暑や豪雨など気候変動の影響の顕在化による環境保全意識の高まりから、輸入や遠隔地からの食料供給に頼らず、自身で食べものをつくることへの関心が一層高まっています。筆者がこれまで国内外で調査を進めてきたなかでは、都市型農園には図1のような意義があるとまとめています。本稿では、特に多くの都市型農園がみられる都市である神戸市とドイツ・ベルリン市の事例を取り上げて、具体的にどのような都市問題の解決に資するのか、そしてどのような施策・取り組みが必要なのか考えていきます。

図1 都市型農園の意義

人口減少と農のフロンティア・神戸

 政令指定都市であり大都市ともいえる神戸市は2011年から人口が減少し始めており、高度経済成長期に整備されたニュータウン部を中心に、大阪から遠い北部・西部で特に高齢化・人口減少が進んでいます。筆者もそうしたエリアに近い住宅地に住んでおり、急勾配の坂や階段をゆっくりと歩む高齢の住民の姿や、徐々に増える空き家を日常的に見かけ、10年後・20年後はどうなっているだろうかと思案しています。比較的中心部に近い長田区の木造住宅密集地域など、昔からの市街地でも空き家・空き地が増えています。また、公園も需要が減少し低未利用のものや、公園愛護会となる自治会・婦人会等の消失で、管理が困難となるものが増えると見込まれます。

 一方で、そうした地域にはむしろ、味のある景観や地域コミュニティがあると捉える人々もおり、地域をよくしたいという熱意を持った住民たちが空き地の農的活用に積極的に取り組んでいることがあります。神戸市経済観光局農水産課が2015年から、農漁業を盛り上げる都市戦略「食都神戸」に取り組んでいることもあり、神戸では農の一大ムーブメントが起きているともいえるでしょう。この「食都神戸」では、神戸の農業・漁業を振興するとともに、消費者が生産の過程について体験を通じて理解したりできるよう、市内の空き地や公園を使った農園での「アーバンファーミング」が推進されています。多くは貸農園型ですが地域のための共有エリアも備えている場合があり、市内の若手農家の方が教えにきてくれることもあります。市街地と農地の距離が近い神戸らしい取り組みといえます。

 空き地活用の具体的な事例としては、北区の北鈴蘭台駅近くのニュータウンにあるすずらんコミュニティガーデンがあります(図2)。土地(3,300 m2)は神戸市開発局のものであり、阪神淡路大震災のあとには復興住宅用地となっていましたが、数年で役目を終え未利用地状態となっていました。そこで住民がまちづくり協議会を通じて無償で借り受け、2003年にコミュニティガーデンとしました。定年退職した男性は地域とのつながりが薄いため、畑仕事をしてビールを飲める場所をつくりたいと、居場所づくりの観点から始まった農園です。徐々に女性会員も増えたことにより、いまは花壇も多くなっています。週2回の定例活動のほか、子どもを呼んで虫取りイベントを開催したり、地域のフェスタで野菜やお花のリースなどを提供したり、さらには社会福祉協議会との連携で閉じこもりの方向けのイベントを行なったりと、社会的包摂・居場所づくりや、環境教育、安心で新鮮な食料供給などの役割を担っているといえます。

図2 すずらんコミュニティガーデン(神戸市北区)

公園のなかにある低未利用地も農園として活用が進んでいます。先の「食都神戸」都市戦略の一環で、実証実験として平野コープ農園が2021年に兵庫区の平野展望公園内で、ウジャマー菜園が2023年に長田区の新湊川公園内で始まりました(図3)。実証実験期間は2024年3月に終了しましたが、地域の人々が運営をつづけ、市内の農家の方からアドバイスをもらいながら野菜栽培やさまざまなイベントを楽しんでいます。比較的若い、30・40代の参加者が多くみられることが従来の市民農園との違いで、特に社会から孤立しがちな子育て世代の女性の居場所づくりに寄与しているとみられます。また、農園をきっかけに集った人々が、近隣の空き古民家活用をし、農園メンバーと料理やクラフトなど自身の特技を発揮したり、ほかの公園も再生のための取り組みを進めたりなど、地域活性化の連鎖も起きています。

図3 平野コープ農園(上:神戸市兵庫区)とウジャマー菜園(下:神戸市長田区)

 このように、空き地や公園を活用して、食料確保や食育、環境教育はもちろん、高齢化や子育て世代の包摂やエンパワーメント、地域活性化のきっかけとなる農園が生まれています。また、教えにきてくれるプロの農家と消費者の関係性が生まれることで、地域農業の理解・振興にもつながっています。なお、神戸市のこうした農園は、北区や西区にある牧場から牛糞や馬糞を肥料としてもらっているところが多く、資源活用の取り組みとしても注目されます。

 神戸市長の久元喜造氏は人口減を受け止め、暮らしやすい都市づくりに注力しています。ニュータウンから人口を吸い取らないよう、また将来的な大規模修繕の難しさのリスクを考慮し、都心部ではタワマン規制がなされています。この規制にあたり、特別用途地区「都心機能誘導地区」が2019年に都市計画決定され、2020年7月より実際に制限が始まりました。他方で、都心部の三宮周辺地区では魅力的な都市空間をつくるため再整備が進み、ニュータウンでも再開発が現在進められています。総体として日本の人口が減るなか、自治体同士で人口の奪い合いをするよりも、こうした既存の都市資源をベースとして住みやすいまちに変えていく再開発のあり方は現実的な解のように思われます。そのなかで、市民も空き地や低未利用地をむしろ資源と捉え、自分たちならではの空間をつくり、自分たちの抱える問題を楽しく解決していこうとするあり方は他自治体にも示唆を与えるものと思われます。

 とはいえ、農園づくりを市民の完全なるボトムアップから始めるのは困難ですし、一方で平野コープ農園・ウジャマー菜園のように市の農水産課が関係部局との交渉により公園での農園整備を実現させたのは手探りで大変であったと思われます。農園づくりのプロセスが自治体の仕組みとして確立されることが望ましいでしょう。神戸市では、その助けとなる手段も整備されています。

まず、空き地・空き家を地域のために利用すれば、固定資産税相当額や仲介手数料等を補助してくれる「空き家地域利用応援制度」「空き地活用応援制度」があります。この「地域利用」には農園も想定されています。

また、防災性や住環境にさまざまな課題を抱える密集市街地において、災害時の延焼防止や一時避難、消防活動、緊急車両の回転地となり、平常時はコミュニティの場として使われる防災空地を整備する「密集市街地まちなか防災空地事業」も使えます。土地所有者、土地を防災空地として整備・維持管理するまちづくり協議会等、神戸市の三者で協定を結ぶことにより、固定資産税免除も可能になります。実際にこれらの制度や事業を用いて整備された農園もみられます。

 こうした制度や事業を活用した農園づくりのプロセスを整理するとともに、アドバイザーとなる地域のコーディネーターの役割もこれからますます大事になってくるでしょう。既に神戸にはキーマンが複数見られますが、コミュニティのコーディネーターの職能の確立が求められます。

都市計画助成プログラムを通じた農園整備・ベルリン

 次に、土地活用だけでなく、より総合的に住環境を改善しようとするプログラムの一環として都市型農園を位置付ける参考事例として、ドイツの社会都市(Soziale Stadt)プログラム[1] (2020年からは後継の「社会的結束」(Sozialer Zusammenhalt)プログラム[2] に移行)を紹介します。

 ドイツでは、1999年より連邦・州・自治体が共同出資する政策として、産業衰退や高齢化、外国人増を背景に社会・環境問題を抱える地区の再生を目的とした社会都市プログラムという、都市計画助成プログラムが実施されました。このプログラムを用い、2018年時点で533の自治体で934の施策が打たれ、投じられた連邦予算は2013年には4,000万ユーロであったものが2014年には1.5億ユーロ、さらに2017年には1.9億ユーロまで上昇しました。ハード・ソフト整備の両面から、縦割り構造を超え、住民とも協働して地域の問題の総合的解決を図る本プログラムは、コミュニティの社会関係の形成・強化を目的とする地区マネジメント(Quartiersmanagement、以下QM)を基本的な手段としています。つまり、社会都市プログラムにより資金投入される地区には、QM組織が設置され、NPOなどの組織がそのQM組織の役目を担います。

QM組織は住民組織や地域団体の設立を推進し、資金援助、全体の調整、評価を行います。地域の複合的な問題に対しては、問題の特徴や主体の関係性に応じた解決手段が必要であり、地域内の様々な関係主体の意見が集約された計画や方針が求められます。そのため、過半数が住民で成る15~25名程度の地区評議会(Quartiersrat)も設けられ、地区の問題の議論や助成案件の審査が行われます。こうしたQMにコミュニティガーデンがツールとして使われることがあります(図4)。

図4 地区マネジメント(QM)とコミュニティガーデン(CG)の関係性(新保・太田(2020)より[3])

 この社会都市プログラムの一環でできたコミュニティガーデンのひとつが、フローベンガルテン(Frobengarten)です(図5)。立地するシェーネベルク・ノルト地区は、高失業率、低収入、移民の多さ、売春、麻薬取引などの問題から社会都市プログラムの対象となりました。そこでQMが地区内に最初に設置したコミュニティガーデンが多様な人々の交流を生んで住環境の向上に寄与したという成果を受け、ガーデンを普及していく「ガルテン・アクティーフ」(GartenAktiv)プロジェクトが立ち上がりました。QMがコミュニティガーデンのコーディネートをできる主体を募集したところ、ランドスケープアーキテクチャー事務所グルッペ・エフ(gruppe F)が応募、採用され、フローベンガルテンが設立されました。

図5 フローベンガルテン(ベルリン市シェーネベルク区)

使われた土地(600 m2)は本来、公園に隣接したプレイグラウンドであるはずの市有地でしたが、公園と反対側に隣接したホテルにより駐車場として使われていました。コミュニティガーデンがつくられることで、住民が土地を取り戻す意味も込められたとのことです。

レイアウトはグルッペ・エフと住民の協議により決められ、1~数人で借りるレイズドベッドおよび地植え型の26区画、共同の地植え型の2区画があります。地区自体の特徴として、住民の45%が36歳以下と若者が多く、ガーデンの参加者もほとんどが30・40代の子育て世帯や学生だそうです。国籍はポーランド、トルコ、中国など多様ですが、女性が多くなっています。近隣の幼稚園2園も利用しています。

2020年までは社会都市プログラムの資金提供を受けていたフローベンガルテンはその後自走する必要がありました。運営のための協会が設けられ、整備当初から支援を受けていた公益的住宅起業ゲヴォバック(Gewobag)からは、いまも資金援助も受けているとのことです。ほか、他の社会支援を行っている組織などからも現物寄付が行われています。

このように、社会都市プログラムは、農園をツールとして地域の課題を解決に向かわせられるような助成プログラムであったといえるでしょう。もちろん農園だけですべてが解決するわけではありませんが、住民の機運を高め、変化を可視化することが重要だと考えられます。

今後の展望

 本稿では、どのような都市の課題に応じて農園が活用できるのか、またそれがどのような制度やプログラムによって成り立ちうるかヒントになるような事例を紹介・考察しました。近年、都市型農園の事例は国内外で急増しており、東京都日野市の一般社団法人TUKURUのように、その動きを支援するような組織の立ち上げも進んできています。

しかし、日本においてはまだ情報が散在し、いざ始めたい人はなにからすればよいかがわからない状況となっています。自治体にも都市型農園の意義や設立ノウハウが十分に浸透しているとはいえません。状況を整理し、ノウハウを体系化して、なんのために・どのように都市型農園を設立できるのか誰でも情報にアクセスできるよう、プラットフォームづくりや支援組織の設立が求められます。ニューヨークのグリーンサム制度や、ドイツのベルリン市がつくる「アーバンガーデニング」(Urban Gardening)のプラットフォーム[4] 、同じくドイツの都市型農園等を支援する組織のanstiftung[5] のように、欧米では参考になる仕組みが多く見られますので、その具体的な役割を見ながら日本版プラットフォームの整備に取り組んでいきたいと考えています。

プロフィール

さいたま市出身。東京大学農学部環境資源科学課程緑地生物学専修を卒業後、東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻にて修士・博士号(環境学)を取得。筑波大学生命環境系助教を経て、現職。緑地計画学を専門とし、コミュニティガーデンなど都市型農園の役割や管理運営方法、都市緑地計画への位置づけを主に研究。主な著書に「まちを変える都市型農園 コミュニティを育む空き地活用」(学芸出版社 刊)。


 [1]https://www.staedtebaufoerderung.info/DE/WeitereProgramme/SozialeStadt/sozialestadt_node.html

 [2]https://www.staedtebaufoerderung.info/DE/Programme/SozialerZusammenhalt/sozialerzusammenhalt_node.html

[3]https://doi.org/10.11361/journalcpij.55.799

 [4]https://www.berlin.de/special/sharing/urban-gardening/

 [5]https://anstiftung.de/

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