村上豪英さんに聞く ソーシャル・ディベロップメントの可能性

Vol.35インタビュー
関西支部だより+ 35号(2021年3月版)
特集「コロナ以後の新しいエコシステム」Vol.4 

インタビュー記事
村上豪英さん(株式会社村上工務店代表取締役、神戸モトマチ大学代表、有限会社リバーワークス代表取締役社長)

日時:1月19日 場所:オンライン
主催:都市計画学会関西支部編集広報委員会
趣旨:コロナは人々の価値観をどのように変えつつあるのか. 新たな価値観は人の行動やワーク・ライフスタイルをどのように変容させ、それは都市と地方の関係をどのように変容させるのか.ソーシャルディベロッパーとして、神戸を中心に活動する村上豪英さんにお話を伺った.

村上豪英さん(村上氏提供)

村上私の活動のスタートは2011年です。
 東日本大震災が起きた時に阪神淡路大震災以降16年間まちのために何もしなかったという自分自身の不作為に衝撃を受けました。当時、今よりはるかにネットワークのなかった自分ができそうなことを探そうと思って、2011年に神戸モトマチ大学という勉強会を始めました。神戸モトマチ大学は簡単に言うと活躍しているまちの人に話を聞くだけの勉強会ですが、「社会関係資本が生まれていくように」という部分に気を遣いながら学びの場を作っていました。

 活動を通じて自然と市役所の人とかと出会う機会が増えてきまして、2014年に「神戸の街のこれからのために、なにかアイデアがほしい」と言われ、提案したのが東遊園地でした。

 市役所の隣の街の中心部の公園で、ルミナリエや1.17の時には結構人が来るんですが、みんなそういった大イベントの時しか来ないので、「いつ行っても東遊園地って混んでるね」みたいな印象を持っているんですけども、実態としては日常的には全然人が使っていない公園だったんですね。
ここが気持ちいい空間になると、コンパクトシティ神戸の核になるし、都心の価値を高められるんじゃないかなと思って、2015年の6月になんとか社会実験をする許可だけをもらって始めたのが「アーバンピクニック」です。

 公園の北側のちょっとした歩行空間に、120平米くらいの天然芝と、「アウトドアライブラリー」と称したライブラリー兼カフェスペースを作って2週間様子を見てみたら、自分でもちょっと驚くくらい人が来ました。来場者が増えるという表現は本当は正しくなくて、滞在時間が増えると来場者が増えるように錯覚するだけで、本当はその人たちは前からいたんじゃないかと思うんですが。
 昼も夜も結構いい空間になりました。2015年の春と秋に2週間ずつ実施した結果、誰が見ても明らか圧倒的に人に滞在するような公園になったので、市役所の反対されていた方々も「これはとてもいい活動だからこのあとも続けよう」というように考えてくれました。
 翌年の市議会で予算をちゃんと通してくれて、南側に広がっている土のグラウンドを芝生にしてくれました。

 2015年は本当にほぼ100%手弁当でやったんですが、2016年からは年間予算1000万ぐらいでやってました。7割は自己財源でやってるので、主体性を損ねることもなく、芝生の横に仮設構築物を毎年作って、カフェをやったり、セミナーをやったり、ヨガみたいないろんなプログラムをやりました。
この活動は、当初、不動産価値の向上分が公園に還流するBIDのような仕組みにできないかなと考えていたんですが、ポジティブな活動だからそこにお金が回るということにはまだまだ日本では導入まで飛躍があるなという話になって、その後市民性が高まるプロセスを可視化できるようなことが起こっているんじゃないかというところに注目するようになりました。

2015年の初めてのアーバンピクニック

 公共空間を育てていくことでそこに愛着が生まれるし、実は育てているつもりで自分たちの市民性が高まるみたいなことがあるんだなと私も実感しました。そういう活動をしようと思ったときに、公園というのは結構いいフィールドじゃないかなというのが実感でした。とはいえ、自分が公園に関わる手段をみんなが一人ひとり発見するのは難しいと思うので、入り口のステップみたいなものはいろいろ用意したらいいんじゃないかと思って試したのが「アウトドアライブラリー」でした。市民が一人1冊寄贈することでライブラリーができていく仕組みは、何人の方がそこに貢献しようとしたのかというのが本の数を見ればすぐにわかるので、わかりやすい仕組みだったなと思います。芝生も他のイベントで活用されたものをもらってきたり、いろんな方からもらってきたTシャツで一生懸命ガーランドも作ったりしました。

 人々が風景づくりに参加している様子も他の人が好ましく思うということを実感しています。そこを「眺める」というアクションは人がそこにいる理由を作ってくれるんだなと思います。何をしてもいい場所に何もせずにぼーっとしているというのは、日本人はあまり得意じゃなくて、何をしているのかっていうのがはっきりしている方が人がそこにいてくれる方がいいんだなと感じています。
その後、公園全体のリニューアルが必要じゃないかという機運が高まってきました。2019年にパークPFIのスキームで公園に拠点施設を建てて運営する事業者を公募するコンペが行われまして、私たちがやっている一般社団法人を含む企業グループが選ばれました。2022年の秋に施設ができて運営をスタートする見込みです。

 この神戸市兵庫区湊山小学校跡地は全く別で、私が経営している村上工務店という会社が、2019年に神戸市兵庫区の廃校になった小学校跡地の利活用事業コンペで採択された事業です。校舎の正面から西半分は解体しますが、東半分は比較的ましで耐震性もあるので、残したままでリノベーションして、新築の建物も1つ建てて、校庭部分を中庭として使う複合用途の開発にチャレンジしています。2022年の4月にオープンする予定です。神戸市から15年間×2回、最長30年間の借地で土地を借りて、建物自体は譲渡を受けて、我々がリノベーションや新築した建物を賃貸していくスキームです。お金がかさむので事業主体は村上工務店ですが、今まで東遊園地でやってきた活動の延長線上だなと思っています。

湊山校舎の解体前現況

 これは、私が経営しているリバーワークスという小さな会社が受注したものです。うめきた2期開発予定地の中で、「UMEKITA BASE」という名前の公共用地利活用にチャレンジしました。公園ってやっぱり人がそもそもくつろぎに来てるので、そのくつろぎ方をいろいろ提案するとそこに受け入れられる余地があるんですが、ここはグランフロントとスカイビルの間にあって、人が明らかに移動したいというものすごく強い意志、目的をもって歩いているところなので、そこで立ち止まりませんか、過ごしてみませんかっていうのは初めは本当に難しかったです。
こんなに人がいるのにこんなに立ち止まらないのかと思って、無理に立ち止まらせるよりも、もう少し具体的にここの場所に愛着を持つ人を増やしていくためには、せっかく我々が用意したプチステージがあるので、そこを我が事として使う人を丁寧に掘り起こしていくしかないなと考えまして、実は2020年の3月以降、毎日びっしりいろんなプログラムを入れてました。そうすることによって、きっとここに具体的な愛着を持つ人が増え、地元の人たちに愛されていくような場所に徐々に育つはずだったんですが、残念なことに第一波と第二波のコロナのタイミングで、終わってしまいました。

UMEKITA BASE

 湊山小学校跡地、東遊園地という2つのプロジェクトを一生懸命準備していた2020年の8月の終わりに、新しい話が舞い込んできました。JR三ノ宮の駅ビルの解体工事が2020年の12月に終わったんですが、JR西日本としては、非営利活動として誰か暫定利用してくれる人はいないかということで探していたみたいなんです。そういうちょっと変わった人はどうやら少ないようで、東遊園地の社会実験のためにつくった一般社団法人に声がかかりました。面積自体は560平米くらいあるんですが、お客様に入っていただくところは400平米くらい。JR三ノ宮駅の南側に隣接している、ギターをじゃらんと鳴らしたら中央改札口に聞こえるような距離なんですけども、2020年の12月から「StreetTableSannomiya」として暫定利用しています。

 主催者は一般社団法人リバブルシティイニシアティブです。コンテンツとしては、地元の飲食の他、ワークショップを走らせたりしています。これも、まだ苦しんでるんですが、それなりに東遊園地のあとうめきたで苦労したかいがあって、人が愛するスポットになればなという風にやってます。
三宮の駅周辺にはビッグプロジェクトがあるんですが、市民からしてみたら、いつなにができるのかすらわからないし、自分たちの関わりしろも全くないという状態だったと思うんですね。なので、ここの活動をするに当たっては、飲食やライブハウスの方々の活躍の機会になればいいなと思ったのと同時に、市民が都心の再整備にちょっと関わる場所として使えたらいいなという風に思ってます。神戸市は三宮の駅前をいずれ歩行者空間をだいぶ広げて、公共空間として活用しようと思ってるんですが、この実験を1つ勉強材料にして、みんなでコンテンツやプレイヤー開発ができたらなという風に思っています。

StreetTableSannomiyaの全景

 コロナの影響については、世の中で言われていることと少し違ってるかもしれませんが、恐れずに言うと、ベーシックなところはあまり変わらないと認識してます。つい最近、イギリスで今年(2021年)の秋以降の旅行の需要がめちゃくちゃ爆発しているというニュースを耳にしたんですね。ワクチンを打った、あるいは順番待ちが始まっている方々にしてみると、ワクチンの後にどこ行くかということは現実的で次の選択肢としてあるんじゃないかと思っていて、そういったことは日本でも起こるんじゃないかと期待しています。ニューノーマルとかいうよりも、ベーシックなところに戻るんじゃないかと。そういう風に思う一つの理由は、阪神淡路大震災のあとも、東日本大震災のあとも、大きくこれをきっかけに社会が変わるんじゃないかという期待も含めた観測があったと思うんですが、私の感覚ではほとんど変わらなかった。それくらい元に戻ろうとする力って強いなって感じを持っていて、今回は期間があまりにも長いので、いろいろ変わることもあるだろうけども、人と人との交流、リアルな交流を求める気分はものすごい熱量で戻ってきてキープされるんじゃないかというのが私の感覚です。

編委:そういう意味で言うと変わらないんでしょうけど、早まったのかもしれないですね。

村上さん:外で何かをしてるということに対して、「これの方が安全だからいいよね」っていうコロナ禍だからの口実をみなさん見つけてくれてますよね。さっきも言いましたけど、なんだかよくわからない空間を、だらっと使うみたいなのは、結構日本人は苦手だと思うんです。芝生になった東遊園地も、UMEKITA BASEも最初は外国の人がやたら使うと。それはやっぱり、よくわからない場所に対する使い方が慣れてるっていう感じはしました。昔、東遊園地の活動を始めたころに、数ブロック向こうの会社に勤める方々にインタビューしたことがあるんですね。写真を見せて回ると「あ、そうなの。知らなかったけれど東遊園地って今こんなにおしゃれになったんだね。素敵だね」と、そこまで言ってくれるんですが、「ところで、そこに行ったときに私は何していいの」「何していいのかよくわからないから行きません」みたいな、結構素直な意見が拾えまして、そういう何をする場所なのか明確に定義されていないと行かないみたいな感覚が日本人にはあるんだろうなと。

 使えば使うほど、そういう使い方がわかると思うんですよね。海外のビーチリゾートに行っても、昔はバナナボート乗ったり、パラセール乗ったりしないと納得しなかった人も、いまではビーチサイドとかでだらっと本読んだりして過ごせるようになってきているのも、使い方の多様性を知って、自分らしい使い方を受け入れているわけじゃないですか。それは日本の一般的な公共空間でも同じで、自分らしい使い方は探せるし、それは単なる経験値の差だと思うんですが、このコロナのおかげで、その経験値の差が詰めやすくなってるんだとしたら、何か加速するという気はしますね。

編委:リアルの交流を求めるというのがそんなに変わらないんじゃないかという話がありました。傍観者、消費者、市民っていうステップがあるとすると、傍観者とか消費者が、たまたまあったからそこに行くというようなことは、コロナのせいで壊滅的なんですけど、市民というレベルの人が一定数いるから、しっかりコミュニティとかお客さんとの信頼関係は残ってるみたいなことが起きているのではないでしょうか。

村上さん:ストリートテーブルで、ものすごく賑わっている飲食スタンドは、個人店のオーナーさんが実際に営業しているケースなんですよ。その人とお客さんとの関係っていうのは売る人と売られる人なんだけれど、決して消費者とサービス提供者の関係にとどまってはいないんです。こういうのって面白くて、人間ってただの消費者でいたい瞬間もあるじゃないですか。僕もコンビニでビールを選ぶときに、特段市民性を発揮しているとは思えない。傍観者である自分もいるし、でも他の人と関わろうとする人間らしい瞬間を自分で出したくなる時って誰しもあると思うんですよね。そういう割合を高められるような場を作っていると、いいんだろうなってのは飲食スタンドの営業状況を見ててもすごく思いますし、それが気持ちいいなって感じる人が現れるといいなと思います。

 違う言い方をすると、すごく人通りが多い場所なので、中を覗いても入らないで行っちゃう人もすごく多いんですよ。そういうのを見て、行政の方も今回のストリートテーブルって仮囲いで周りが囲われている空間なんですけど、囲いを取り外した方が入りやすいんじゃないかっておっしゃるんですが、こういう部分がなかなか難しいと思って。オープンにして入って来る人は、消費者の気分、傍観者の気分で入ってくるんじゃないかと思って。関わらないといけないかもと思って入って来る人で固めることの方が大事なんじゃないかと思ったりします。もうちょっと調子乗って言うと、公共空間をみんなに開かれた場所にするという意識が強すぎると、誰のためでもない場所になりがちだなと思うんですね。そういうことよりも、「ここに入ってみたらこういう経験ができて、また来たくなった」ということを重ねていくことが大事かなと思って運営しています。

編委:自治体がハードでのプロジェクトを仕掛けていって、大企業が最初に定めた計画に沿って投資をするような方法がこれまでの主流だと思うのですが、市民の中にもユーザー、プレイヤーもしくはコーディネーターが出て来て、複合的にプロジェクトの雰囲気を作っていき機運を高める、それで徐々に広がっているように見える、例えば東遊園地のようなプロセスが、これからこういうプロジェクトの作り方、起こし方の主流になっていくのか、それともある種一つの特殊事例なのか、都市づくりの在り方がどういう風になるとお考えですか。

村上さん:都市づくりとまでは言えないかもしれませんが、こういう暫定土地利用とか、何かの場所を活用するみたいなことを、自治体や大企業などの大きな組織が考える時には、これまではそれなりにその仕事を請け負う方がいたと思うんですよね。広告代理店とかイベント請負会社とか。そこに正規の手順で発注すると。そうすると、当日までにちゃんと準備してくださって、初日には市長のあいさつとテープカットがあって、次の日にはマスコミに出るみたいな。そういうことってあったと思うんですが、ただ暫定利用する公共空間にこれまでのタイプと違うものが出てきたというのと、ネガティブな意味も込めてそれほどの予算投下がないというか、安い値段でやろうとしている、あるいはそこに求める効果が、「いい画が取れたらいいや」「人が多く来たらいいや」ということによりも、もう少し地に足のついた、地域の方々に受けいけられるような愛着を集めたいというような目的意識が発注者側に現れたりして。今までの引き受け手では対応できないような場所、シチュエーションっていうのがゲリラ的に生まれているんじゃないかと思います。全部がそれになるかというとそうではないんだろうけど、そういう余地っていうのはちょこちょこ増えていて、今回JR三ノ宮駅に隣接する場所みたいな、ものすごい広告代理店やビール会社がビアガーデンとかなにやってもうまくいきそうな所が、私たちみたいな小さな組織にやってきたというのも、コロナの影響でゲリラ的な活動の隙間が一時的に増えているからかもしれないですね。それはいいこともあって、時間かけて地道にやっている活動だからこそ得られる成果っていうのは絶対あると思いますが、それは発注者も目を凝らせば絶対見えると思うので、そういう活動の誘致は増えていくと思います。と同時に、今まで通りのやり方も残るんだろうなという気はしています。

編委:これまで事業として成り立たせていく人は企画の前段階には入らないで、プロポーザルで入ってくるんですよね。で、企画の前段階でやっている人はだいたいボランティアかなという感じがします。村上さんはプレイヤーを発掘して、場を準備して、そのあとの組織とか施設運営で事業として成り立たせていくみたいな、超かっこいいローカルデベロッパーって感じなんですけど、地元にちゃんと根ざしているネットワークがあるところの強さはすごいなと思います。

村上さん:ローカルデベロッパーになったらいいなというのは今は思いますけど、実は最初はそうは思ってなかったんですよ。東遊園地のときは、ちょっと活動して、この公園の良さって誰か活用したらみんなわかるでしょと。そのあとは、どこかかっこいいプロの飲食事業さんが公園の有効活用をやればいいと思ってたんですよ。思ってたんですけど、2016、17年と自分自身コーヒーたてながら4、5か月あそこにいると、飲食事業者の経営者が考えることと、公共空間がよくなっていくことは当然若干のギャップがあると考えるようになりました。例えば飲食事業者は飲食の客層にターゲットを決めて、その方々に訴求するような戦略をとっていくと思うんですが、公共空間は誰にでも開かれているというのが大前提だと思うので、そこのギャップをどう考えていくか。あるいは、公園の中にカフェ建ててビール売ってるんだけど、近くのコンビニでビール買ってくる人のことをどう理解したらいいかということを考えると、絶対ギャップはあるなと思って。そのギャップを消化して、公共空間活用しながらカフェを運営するというプレイヤーは、残念だけど自分には見当たらなかったんですね。「あの人ならギャップを乗り越えてできるんじゃないか」って人が。しょうがないから自分でやるかと思ったんですよ。それで最近調子に乗っちゃったっていうか(笑)

編委:やっぱりそこに、飲食とかそれほど大きくないですが不動産事業、そういうものを構えて少し長いスパンで投資して回収するっていうのをセットでするのがいいんじゃないかってことですよね。

村上さん:そうですね。スパンの話があったのでお答えすると、Park-PFIが最長20年になったとはいえ、まだまだ短いなと思って、そんな期間で回収できるビジネスを成立させるのはそんなに簡単じゃないですよね。そこのリスクを取るかどうかっていうのは…。ぱっと来た人は逆にできないと思うんですよ。

編委:村上さんみたいな人達がどんどん生まれてくれると、すごく単純に言うと、もっとうまくいく事例が増えてくるんじゃないかと思うんですが、どういうところが解決・改善されれば村上さんみたいなタイプのローカルに根差してリスクを取る人たちが増えると考えますか?

StreetTableSannomiyaの客席とステージ

村上さん:自分がやっていることは新しいことをしているつもりは全くないんですけど、たまたま気が付くとあんまり他の人がやってなかったことがあるだけの話で、ちゃんと事例を説明すると、それならできるっていうディテールに満ちあふれているような気がするんですね。できないところなんてちょっと思い当たらないかなあ。やろうと思えばやれる余地は増えていくんじゃないでしょうか。テクニカルなこともそうなんですけど、そういう事例があって、「そういうふうにやっていいんだ」っていうことが広まることがすごく大切な気がしています。東遊園地のどこかの活動の時に手伝ってくれていた大学生が、「村上さんが公園がみんなで育てられるものだと言ってたけど、体験してみて本当に育てられるものなんだって思いました」って言ってくれたのがすごいうれしくて、彼女はこの後どこかに行って、いまいちな公園だったら自分で直せばいいんだよねって思ってると思うんですよね。そういう感覚はちゃんと伝播するものだし、そうなればいいなとは思っています。そういう感覚、実は自分の息子もちっちゃい時から公園に連れて行ってずっと見せてると、いまいちなところがあれば市役所に電話するんじゃなくて自分でやっちゃえばいいんだよねっていう風に思ってますし、見てれば誰でもそう思うんでしょうね。そういうところは誇らしく感じています。

編委:見たり、聞いたり、経験したことのある人が「じゃあひとつ俺も」っていうのはあるので、神戸の取り組みを経験された方がどこかへ巣立って行ったり、増えて行ったりする過渡期だと思うと、これから明るいのかな、おもしろいのかなって気はします。

村上さん:小さい街になればなるほど、街のこと考えてるって公言して動くっていうのが公共団体の人しかいなかったりして、その人たちが先走っていろいろ考え出すから、その人たちの目線からプレイヤーを探さなくっちゃとなる。こういう順番になってしまう時点で、割合まずいなっていう気はします。ずいぶん私も、プレイヤーの方をどう探せばいいですかっていう質問を行政の方から聞かれますけども、私自身も逆に神戸市役所が探してきたスキームで乗っかる形だったとしたら今のようにできなかったと思うし、行政はやはり縦割り組織の中でこういうことをやるんだっていうのが決まってますんで、その施策目的から大きく外れたことを提案しても受け取ってもらえないので、難しいですよね。それをどう解消したらいいのかはわからないですけど、市民の側からはじめに一歩踏み出すっていうのがものすごく大切なプロセスな気はします。

編委:プレイヤーを探すスキームからプレイヤーは見つけられないという今の言葉、肝に銘じたいと思います。

湊山地域ジオラマワークショップ

村上さん:でもね、じゃあどうしたらいいんだってのは私もわからないんですけど。
しょうがないから勢い余って自分がプレイヤーになるっていう公務員の方々もいると思うんですよね。それがうまくいくときといかない時があって、なんでそれが違うのかわからない。でもなんか勢い余ってそういうことやっちゃう人いるんですよね。気持ちはすごいんですよね。

編委:いろんなリスクの話も含めて当初かかわり方をどういう風に考えていらっしゃるのでしょうか。

村上さん:お恥ずかしいですけど、そんなに考えてないですね。ほんとに単純に社会的な意義があるかどうかと、自分が取れるリスクに収まっているかどうか、この打席に俺は立たないって決めたときに、打席がもう一度回ってくるかとか。そんなことくらいで決めてて、将来展望はなくやってます。
たぶん、世の中1人で抱えられるものってそこそこあると思うんですね。しかも、1人でもなんとか抱えられるのに3人くらい手伝ってくれると、だいぶ大きなものが抱えられるというか。なんか3人で変えられるもの、抱えられるものなのに、結果として見送られちゃっているものっていうのは世の中いっぱいあるんじゃないかって気がしますね。やればいいのに、別に死ぬわけじゃないのに。

編委:都市の中で多くの人がいて、外からの人も中からの人もいろんな多様な人がいる中で、交流やコミュニティの形成を行うときに、最初入ってそこからかかわりを深めていく仕掛け、才能、考え方とか何かありますか。

村上さん:いろんなかかわり方を受け入れられるようにしておきたいとは思ってます。ちょっとだけ関わりたい人とか、半年ぶりに来た人とか、1回だけ手伝ってくれたけどそのあとはお客さんとしてきている人とか、いろんな人がいるじゃないですか。それはそれでよくて、関わりたい人がかかわれるオープンネスがあればいいかなと思っています。いまコミュニティって言葉を使われたんですが、コミュニティを作らないようにするというのは僕が気を付けていることです。コミュニティっていうのはどうしても境界を感じる言葉で、コミュニティの中とか外とか、コミュニティに入るって言葉もそうで。そうではなくて、ソサエティをみんなでちょっとましな方に転がしたいなみたいな感覚はあるんですけど。コミュニティはやっぱり入ってしまうと息苦しかったり、他人のコミュニティはうっとうしいから近寄りたくなくなったり、そういう面もあるじゃないですか。公共空間を使うときに、そこにずっといるコミュニティがあってちょっと入りにくいみたいなムードを払しょくするのは、言うは易しでそんなに簡単じゃないんですけど、そこはずっと気にはしています。

編委:組織を作ってしまうと新しい人が入ってきにくくなるっていうことがあるってことですかね。

村上さん:そうですね、やっぱり組織って作った瞬間から、組織の維持にかかる余計な労力っていうのが物理的にもだけど精神的にもありますよね。

編委:そもそも海外に行くと、パブリックスペースは別に村上さんみたいなローカルデベロッパーが運営するもんじゃなくて、私たち市民に税金をいただいてるから行政自らが運営するんですよって普通に言われるんですね。特にヨーロッパは何で民間に開放しないんですかって聞くと、なんでパブリックスペースを民間に開放するんですかって聞かれるんですよね。行政、事業者、ボランティア、財団みたいなのをうまくバランスしてコラボレーションしてるのって、日本ではあんまりないなと思ってたんですけど、村上さんは、その辺のバランスは、どの辺が一番と思ってらっしゃるのか。

村上さん:日本流にいうと行政と大きな民間企業に任せてしまうという方法のほかに、市民的な感覚をもつ企業や市民と一緒に、もう少し自由に動きながら街を動かしていくみたいなケースもあるんだなということが認知されるだけですごくいいのかなって気はしています。

編委:単なる運営の維持管理の経費を払うっていうのも1つの方法なんですけど、例えば行政も何かプログラムだったり投資を持ち込みつつ、民間事業者も一緒にやるみたいな方法もあるのかなと思って聞いてみたところです。

村上さん:自分の身の回りだけかもしれないけれど、街のために何かしたいと思ったり、そうはっきり発言する市民とか市民的企業って増えていると思うんですね。自分自身も昔と比べたら、そう口に出すようになってますし、まだ行政の側がそういうものの存在を信じられていないケースが多いのかなと感じています。それは時間の問題で、だんだんいろんなケースが見えてくると、「そういう風にうまくまわることもあるんだ」と気づいて、それが第三の選択肢として回りだすと、ずいぶんやりやすくなるんじゃないですかね。

(編集担当:中山哲也)

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