廃屋をハックし、都市の隙間に「生存の自由」を築く

vol.39インタビュー関西支部だより
関西支部だより+ 39号(2026年5月版)   
特集「都市経営とまちづくり」No.1

インタビュー記事 西村周治さん(合同会社廃屋 代表)

日時:2026年2月18日 場所:バイソンギャラリー(神戸市兵庫区梅元町)
主催:都市計画学会関西支部編集広報委員会
趣旨:兵庫県神戸市の山手側に位置する梅元町(うめもとちょう)。このまちで、廃屋9棟を改修し、シェアハウスやアーティスト・イン・レジデンスなどに再生した村「バイソン」を手がけた、合同会社廃屋代表・西村周治(にしむらしゅうじ)さんにお話を伺いました。

合同会社廃屋 代表:西村周治さん

西村さんとバイソンの紹介

委:西村さんが代表を務められている「合同会社廃屋」の事業内容や規模感を教えてください。

西村氏:基本的には、不動産流通しない壊れかけの物件を引き取り、周辺の廃屋から再利用できる資材を掘り出し、使われる建物として再生させる事業です。賃貸しているのは、住宅、店舗、住居兼工場など色々あります。請負工事はしていません。藁と土を混ぜて発酵させ、壁材を自作するといった、ほとんど自給自足のようなやり方ですね。以前は「50件ほど手がけた」と言っていましたが、今はもう70〜80件に増えています。そのうち改修が終わって動いているのが35件ほど。本当は全部一気に直したいんですが、いかんせん時間が足りないので、優先順位をつけながら進めています。

委:現在のような事業内容に至ったきっかけについてお聞かせください。

西村氏:一番最初は近くの湊山温泉の周辺を改造して、自分で住みながら改修をやっていました。その場所は今は別のショップの人たちに引き継いで任せています。匂いを作るようなアトリエと、本屋とレザーのアトリエとかの仕事が集まってる場所。温泉の物件はお金を作るために別のオーナーに売りましたが、引き続き僕たちが管理しています。
その次に取り組んだのが梅元町の村(バイソン)。知人の知人が持っていて、その隣も知人が持っていたんですよ。1軒を購入することになるが、何となく拡大する可能性があったのと、やり始めたら周辺から引き取って欲しいと言う依頼があり、広がりがでてきた。村づくりはここが最初。
海外でもこういう少し市街地から離れた丘の上っていうのは、大体高級住宅街なんで、そういう場所は感覚的に、抜ける景色が気持ちよかったり、猥雑としたところからひとつ抜けた空気感が漂っている。地形的な、感覚的なそういう設定があって、なのでここは、廃墟で誰も買わないという状況をひっくり返しやすい。もともとは、チンチン電車が近くの平野まで走っていたんです。ここは南北の交差点で物流の要所になっている場所で、平野の交差点が当時とても栄えていたらしいです。電車が無くなって、中心市街地が三宮に移っていった。昔を知ってる方から、この辺に神社と邸宅が立ち並び、あと全部田んぼといういい場所だったと聞きました。

■バイソンの建物

バイソンは以下のような建物がひとつのエリアにまとまっており、今でも改修は進んでいて完成していません。
・シェアハウス:大部屋やロフト部屋、個室などがある。トータルで10人ほど住んでいる物件もある。居住者として、若者が多く、長期滞在の外国人もいる。耐震補強をしつつ、床などを触っている。
・警察寮:現在改修中。15部屋あって3~4人住んでいる。改修に関わる大工さんなどが居住中。
・アーティストインレジデンス:マンスリーでの貸し出し。「バイソンコンビニ」というお菓子や飲み物が購入できる小スペースがある。
・その他、スタジオ、シェアオフィス、ギャラリー、茶室なども紹介いただいた。
・別の場所のゲストハウス:「茶番」という名前でゲストハウスを経営。利用者はほぼ外国人で日本人は少ない。集客は活発という訳ではないが、Airbnbなどに登録されており、外国人が見つけて来る。ある物件では、2階を住居、1階をスタジオとして利用。

委:物件自体はどうやって探しているのでしょう。

西村氏:昔は毎日ポータルサイトや業者間情報を眺めて探していましたが、今はもう自分で買いに行くことはあまりないです。業者や所有者から「もう手放したいから引き取ってくれ」という依頼が右肩上がりで増えていて、毎月2〜3件は話が来ます。だから取得費用はほとんどかかりません。場所は、駅からは離れ交通の便は悪いけれど景色が良いとか、不動産流通に乗らない「穴場」に集中しています。

関わる人材とユニークな関わり方

委:それだけの物件数を、どのような体制で回しているのですか?

西村氏:最初は2018年にイギリス人とドイツ人と日本人と、やりはじめましたね。みんな仕事なかったんで。まあ、暇だったらうちで働いてみない?っていう感じがうちに来ましたね。

コアメンバーはいます。2021年にバイソンをやろうと思った時から、自分だけではなくチームでやっています。1人は行政や申請担当。彼はゼネコンにいて、そこから神戸のまちづくりコンサルタントを経てうちに来てくれたので、それらは得意。もう1人は経理担当で、彼女は企業で会計をしていた人。もう1人は宿泊担当でマネージャーもしており、様々な大工さんや人事のマネジメントをする人。彼女は自分でゲストハウスを経営していたこともあり、その両方の役割を担っている。建物の構造を確認する建築士の免許は自分が持っています。
レスキュー担当は、また別で苅藻島クリーンセンターで古材ストックヤード「ビバーク」の施設運営もしています。神戸市の事業で古材活用のWSや啓蒙活動をしています。ここでも様々なところから古材のレスキューをしています。
どんどん仲間が広がっています。もともと関わってくれた人が自分で店を出したり基地を作ったりして、結果的に広がる状況になっています。
自分たちの作業場としては、長田に鉄工所があり、北区に倉庫があり、空いている銭湯などもあります。
今は15人ぐらいの大工で5~6の現場を回していますが、これよりも多くなるとマネジメントをすることが難しくなり、別の体制にしないといけないでしょうね。

「大工インレジデンス」というシステムを作っています。大工が現場に2ヶ月ほど滞在し、直しつつそこに住む。遠方から来る人は、大工仲間の紹介が多いですね。現在、現場には19人ほど入っていますが、いわゆる「正社員」としてガチガチに働いている人はほぼいません。週3日アルバイトとして関わるとか、自分のプロジェクトと並行している人が多い。緩やかな繋がりですね。
インターンは常に募集しています。滞在できる場所もあるので常時何名かきてもらっている状況です。

委:西村さんのマインドとして、オープンな感じがあるのかもしれませんが、コアメンバーとしては数人で活動しながら、大工さんほか仲間が広がっているのはなぜでしょうか?住めるからでしょうか?

西村氏:お金じゃないですか。

委:どういうことですか?

西村氏:大工さんには最低限の衣食住があり、仕事ができる状況を作っています。お金を一定程度払う事は大切なことなんです。

独自のビジネスモデルと資金調達

委:これだけの規模になると、資金繰りも独特だと伺いました。ビジネスモデルを教えて下さい。

西村氏:自分のメインの事業は不動産事業。50件ぐらいありますが、売るのは十数件で、残りは賃貸事業をしています。住宅もあるし、宿もあるし、コワーキングもあるし商店もある。そこで賃料収入を上げているのがメインの事業。将来的にはそれで30人ぐらいが食えるようにしていきたい。本来であれば売りたくないが、キャッシュが必要な時には売却も手段として考えざるを得ない場合もあります。
物件は買っているのはほとんどないですけどね。引き取るものが多いので。ただ改修費がかかる、しかし材料費はあまりかからない。一番大きいのは人件費。人がいるから、常時人がいる状況を動かすってなると、案件を動かさないといけない。 それが結構大変です。

委:この立地が大きいですね。小さな町では、無償で引き取って工事費をかけて改修しても、数万円の賃料になるかどうかで採算があわないですよね。まちなかだけれども、接道など物件の条件が悪く、銀行も担保を設定できない、不動産流通にのらないっていう目の付けどころがすごく面白い。

西村氏:地方やもう少し都心部から離れたところではこのビジネスモデルは成り立たないかもしれないですね。三宮から5~10km位のエリアで、不動産価値がない、接道していない物件やアクセスしにくい物件など、それをリノベーションすることも大きなハードルであり、そのギャップが事業が成立するポイント。近くに駅がないのも良いところ。駅が近いと不動産需要が高くなってしまいます。

あと、ここも借り入れできないって言われたのですが、その前に2012年〜2018年頃まで、個人で自分が住みながら物件を直して完成したら引っ越すという生活をしてたんですよ。6軒くらい。その下積み時代に家族が最低食べる程度のキャッシュフローがあったからスタートできたということはあります。

たくさん借り入れしていますが、常にキャッシュはギリギリです。売ればいいんですけど売りたくない。資金は主に借り入れです。あとは賃料収入と、リノベーションした住宅の売却益ですね。一時期「1億借りている」と公言していましたが、今は1億4〜5000万円くらいまで膨らんでいます。銀行からは「これ以上はもう無理だ」と明確に言われました(笑)。売上規模が借り入れ額と同等なので。

委:個人連帯保証で借りているのですか?

西村氏:はい。でも、個人連帯保証なんて今の時代、ほとんど意味がない。実績で借りている感じです。僕らは返済期間を10年以下に設定しているので、減るのがめちゃくちゃ早い。減ったら、その枠ですぐにまた借りる。僕らには「現物の資産」があるから、純資産がどれくらいか見えている。だからいくらでも借りたいのが本音ですが、なかなか銀行は貸してくれないですね。
最初のスタートは、政策金融公庫から500万借りてるんですよ。年商200万で。だから借りる能力があったのかも。年商200万で500万円。100万円はR不動産の営業の報酬、あと100万円は時給890円のラーメン屋のアルバイトで稼いでいました。

委:スタッフの顔ぶれが非常に多彩ですね。北川景子さんの元・マネージャーがいらっしゃるとか。

西村氏:ミヤコさんですね。彼女は今、旅館業の代表として、人間のマネジメント全般を担っています。彼女は芸能界の後に劇団「維新派」にいた経歴があって、うちには他にも維新派OBが結構流れてきているんです。

委:屋外に巨大な舞台を自分たちで建てて公演をする伝説の「維新派」ですね。

西村氏:そう。彼らは舞台工作のプロであり、自分たちで寝泊まりする場所や食堂まで作ってしまう。その文化がうちの「現場に食堂があって、みんなで作って食う」というスタイルに繋がっています。面白いチームが前にあって、その残党がうちに集まり、またここから新しい店を出す奴が出ていく。歴史は巡っているなと感じます。


「完成度」という病からの脱却

委:なるほど。「お金じゃないですか。」って答えが最初にきた時に、どういうことだと思ったのですが、色々分かってきました。お金を払うのは大事ですね。寄りすぐりの大工さんが来てるからできることもあるんですね。

西村氏:そうですね。いまだに人材不足って言われてるじゃないですか。大工さんがいないというのは、大工さんがまともに働ける状況じゃないだけです。というのは、テクニカルにプラモデルを組み立てるみたいな仕事ばかり、そんなの誰もやりたくない。かといって、専門性が高い、宮大工みたいな仕事があるわけでもない。僕らみたいな材料費0で、全部人の力でやるみたいな。
大工さんはチームクラプトン、維新派、ノマなどとても良い腕の大工が集まってきてくれている。お金だけではなく、自分のクリエイティブを試せるような大工の仕事が全国にない。それがあればいい大工は来てくれます。

委:西村さんの作る空間は、どこか「作りかけ」のような、でも完成されているような不思議な魅力があります。

西村氏:建築の世界は、95%完成しているものを100%にするために、大袈裟に言えば全体30%のコストをかけるんです。これ、すごく不健全な状態だと思いませんか? 完璧を求めるがゆえに、誰も幸せになれない。その「最後の5%」を捨ててしまえば、コストは下がるし速度も上がります。

委:大工さんには、どのように依頼・指示されているのですか?

西村氏:やり直しはほぼさせません。やったことが正解。クオリティコントロールが緩いだけかもしれませんが(笑)、廃材を使っているんだから粗があって当然。工業製品の世界に慣れていると「隙間がある」とか気になるんでしょうけど、それは機械の世界の話であって、人間の世界ではない。100%の新品を提供しようとするロスが、今の社会は多すぎるんです。

委:社会に出る前にみんな一回経験した方がいいと思う。全然違うオルタナティブな世界を一旦見ないとわからない。普通はモデルルームを見てしまう。

西村氏:ずっとワンルームマンション借りて住んでいる人もいますよね。いろんな世界に出ると、それは違うって気づくのに、若い人はスタートがみんな工業製品なので、こっちにくるのは結構ハードルが高い。
半分以上は廃材です。仕上げはほぼ100%廃材。下地は構造を補強するために新しい材を使うこともあります。

社会の歪みと「所有」というハック

委:西村さんは、今の就職活動や社会のシステムに対してどう感じていますか?

西村氏:正直、就活の必要性がよく分からない。今の社会構造はすごくいびつで、公平じゃない。
何も就活してないので。20代はフリーターでした。そういう方向もあるだろうし。失敗してもいけるぞ、みたいな。大学もジャンルによりますよね。芸大だったので、就活する人はあまりいなかったんです。今はちゃんとした大学の建築学部とかだったら就活とかしてると思いますけど。

不動産の世界も完全に「持った者勝ち」です。これは本当によくない。そこをどうハックするかということが重要な気がする。でも、人口が減って空き家が増えている今は、逆に誰にでも「所有」のチャンスがある。うちの20代の若い子たちも、みんな家を持ってますよ。
僕は昔は借りていたのですが、ジェントリフィケーションで追い出されたので、今は所有してやってます。

委:「所有」することで自由になれる、と。

西村氏:新しい物件を購入しよう、数千万から1億のマンションをダブルインカムで購入しよう、そうすると一生かかって払い続けないといけない。古い建物がたくさんあるのに新しい建物を建てる必要は本来ないのでは。また新しい建物を買ってお金を払い続ける。トゲトゲの小石の上を裸足で歩き続けるようなもの。相当不安定。「子供が病気になったら払えない」なんて怯えながら生きるのは最悪でしょう。それなら、ボロボロの家を安く自分で購入して、自分で直して住むほうが楽しいし、よっぽど安全で「ヌルゲー」です。このように安い物件を自分で購入して自分で直して済む方が楽しいし、安定していてお金も必要ない。

委:お金に対する価値観が、一般的なビジネスマンとは根本的に違いますね。

西村氏:お金なんてただの数字です。今、国がバンバンお金を刷って、自分たちの通貨の価値をゴミみたいにしているじゃないですか。発行元が大事にしていないものを、なぜ僕らが盲信しなきゃいけないのか。だから僕は、その「価値が目減りしていく数字」を山ほど借りて、現実にある「物」や「場」に変えて、遊んでいるんです。

委:西村さんの野望、何を考えているのか聞きたいです。

西村氏:不動産って、やっぱり流行り廃りがあって。今の神戸の団地を見ていたら100万、200万で売りに出てて、でも当時は多分1番高い買い物だったと思うんですよ。今のタワーマンションがそういう状況になる可能性も全然あるだろうなと思ったら、何を信用したらいいかわからないし別に信用しない方がいい。で、そう考えたら、今そこにあるもので楽しく生活できる方法を考えた方が、自分の人生の余剰が生まれて豊かに暮らせるんじゃないかな、みたいなね。
ゴールはないと思いますけどね。ここで木を掘ってるやつがいたり、勝手に店を始めるやつがいたり、それぞれ色々な人がいて、やりたいことやれる空気があって、それが、良いかなと。
まだ成功しているとは思っていません。所有やお金を信じていないから、自分のやりたい世界を実現するために、既得権益やハードルを「所有」という手段で「お金」を使って乗り越えていく。そういう空気感が広がっていくことがいいな。

委:西村さんが再生しているのは単なる「廃屋」ではなく、既存の経済システムに絡め取られた私たちの「生存の自由」そのものなのかもしれないですね。

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