門真市駅前周辺エリアリノベーション事業「FAct Eat kadoma」

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株式会社オープン・エー 大我さやか

門真市駅は、京阪電鉄と大阪モノレールの乗換駅として交通利便性が高く、パナソニック、東和薬品などの本社や門真市役所など業務地が立地しているが、多くの乗降客は駅周辺エリアに滞在することなく、駅周辺のまちの賑わいは失われている。また、京阪電車の線路や大阪中央環状線が東西・南北を貫いているため、エリアが四象限に分断され、地域商圏が非常に狭く、商業中心のエリア再生は困難である。駅前にも関わらず空き家・空き店舗が増加しており、路線価はこの6年間で平均10% 程度下落し、エリアの価値が低下している。

これらの課題に対し、駅前周辺エリアの価値向上を図るため、エリアリノベーションの取り組みが2020年からはじまった。行政だけでなく、鉄道事業者、周辺企業、ものづくり企業、地元飲食店や活動団体などの地元プレイヤーが主体となった実行委員会が立ち上げられ、駅前周辺のみならず、市全体の稼ぐ力やまちの魅力を向上するための社会実験「FAct Eat kadoma」が実施された。

FAct Eat kadomaの様子

乗降客の多い駅前にも関わらず、地価の下落や空き店舗・空き家が増加、また市全体として子育て世代が転出超過になっている背景には、そのエリアの稼ぐ力が失われてきていることが一因である。

郊外の住宅地とは異なる門真市の特徴は、ものづくり産業によって「稼ぐ力」を持っているまちであるということ、と同時に、郊外住宅地としても発展してきた二面性のあるまちである。地域外への交通利便性や本社オフィス、市役所等、都市の中核機能が立地している利点を生かし、ものづくり産業の新たなハブとして地域内外をつなぎ、「稼ぐ力」を強化していくことが重要と考えた。域外から資金を稼ぎ、働き暮らす人々が、地域商業や暮らしの場でお金を落とす「地域の経済循環」を再生しなければ、このエリアは再生しない。ものづくり・まちづくり双方の課題を地産地消で解決していくこと、これまで交わらなかった「ものづくり」×「まちづくり」を融合させ、新しい価値を創造していく拠点となることが市駅周辺エリアの長期ビジョンである。

エリアビジョンの実現に向け、社会実験という実践を通じて、組織の大小に関わらず、まちを動かす人を巻き込み、公民連携+異業種コラボレーションによる次へのアクションを生んでいくプロジェクトが「FAct Eat kadoma」である。

「Fact(ものづくり)/ Act(アクション)/ Eat(食)が交わる、新しいまちづくりのスタートポイント」を合言葉に、ものづくり企業、大企業、飲食店、主婦、アーティスト、NPOなど多様な主体が集まり、交わることで「メイドインカドマ」の価値を生み出す実験場になっている。初実施となった2021年2月は、駅前広場を活用し、地元飲食店等による屋台村や、高架下の暗さを逆手にとり、門真国際映画祭を開催する「門真フィルム・コミッション」による高架下シアターが開催され、テレビでも取り上げられるほど話題となった。12月に実施した社会実験では、参加団体57組に拡大し、ものづくり企業の職人自ら子どもたちにものづくりの楽しさを伝える「メイドインカドママーケット」では、溶接体験、木工体験、レーザー彫刻、最先端ロボットの実演、VR体験など、子どもたちの興味や感性を刺激するプログラムが多数実施された。また、イズミヤや京阪ザ・ストアなど大企業のチャレンジ出店や、ものづくり企業である一瀬製作所と京阪電車が連携し、車庫に眠っていた京阪電車の先頭部分を、ユニックを使って運び、架台は一瀬製作所が制作した。子どもも大人も、熱狂的な鉄道ファンからも注目を集め、社会実験のシンボルとなった。

地元飲食店による飲食エリア
メイドインマーケットの様子

また、駅前から周辺エリアへの回遊性を向上させるため、市所有の駐車場を2ヶ月間公園化し、キッチンカーでの出店や、地域での活動や交流を創出する「LUNCH PARK」を実施した。コロナ禍で増えるキッチンカーの出店需要を取り込み、さらに地元飲食店にはレンタルキッチンカーを貸し出しチャレンジできる機会をつくった。隣接する図書館が毎週青空ライブラリーを開催し、子育て世代の利用を促した。平日は、周辺で働く人のモーニング・ランチ需要、休日はファミリーが多く利用した。また予想外の効果として、地元の主婦が朝のヨガ教室や手づくり雑貨の販売など活動したいニーズが自然と湧き起こり、周辺企業の研修や企業間交流、青空ミーティングの場にも使われた。このLUNCH PARKは、行政による公園整備としてだけではなく、虫食い的に増える駐車場の活用策として、キッチンカーの売上の一部を駐車場事業者や地主に還元することで、経済的にも展開できるモデルである。点と点がつながり、回遊を促すしかけとなれば、まちの魅力や連続性を生み出すことができる。

LUNCH PARKの様子

地域のネットワークをつなぎ直して、新たなチャレンジや価値を生み出すフィールドとして、公共空間は大きな可能性を秘めている。社会実験は地域で動く人を発掘し育てるプロセスである。公共空間の活用は、維持費削減や民間への切り売りではなく、エリアを再生するための重要な都市戦略である。ビジョンや方向性も定まらないままに民間事業者へのサウンディングが行われていることがあるが、公共空間の活用は行政財産の資産運用ではない。まちの新たな価値を生み出す公共空間の再生プロセスそのものが、エリアの価値や未来を変えていくのである。

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