関西大学 秋山孝正
■はじめに
わが国は、1970年に「高齢化社会」(高齢化率7%)に突入した。その後、高齢化率は急激に上昇し、1994年に高齢社会(14%)、2007年に超高齢社会(21%)へ突入している1)。さらに2018年の高齢化率は、28.1%であり、高齢化の速度も世界的には、極めて急速である。
これまで、環境に配慮した未来型都市としてのスマートシティ、集約された都市構造のコンパクトシティなどのまちづくりが推進されている。これらのまちづくり理念を踏まえて、超高齢社会の課題として、いわゆる「健康まちづくり」を意図したウエルネスシティの構想が提案されている。
また市町村単位の健康づくり構想において、スマートウエルネスシティ(健幸都市)も提唱されている。ここでは、現実の健康まちづくりプロジェクトと市民意識からみた健康都市の展開過程についての考察を行う。
■健康まちづくりの基本理念
健康の概念について、いくつかの試論を展開してきた。その結果、おおむね次のような視点を念頭に置いて検討できるのではないかと考えた。すなわち、①身体的健康に関係して、健康増進活動(運動)・体力増進などを実行する。②医療的健康として、医療・疾病に関係する医療機関、治療・リハビリ・健康管理を中心にまちづくりを実行する。③こころの健康(精神的健康)は、医療機関に加えて、地域コミュニティにより提供される。また、④福祉的健康は、生活支援・社会福祉・介護サービス・地域包括ケアなどを包含する。さらに、⑤日常的健康に関して、元気な高齢者・活気・生活様式・健康な都市生活を推進する。これら健康マンダラを構成することで、健康寿命の増進を与える健康都市が構成される。
このような視点から、図−1に示すような健康都市基本構成(案)を考えることができる。このとき、重要な点として、「健康」は最終的に市民の自律的活動により達成されるということである。この点を現実の健康まちづくりプロジェクトから考察する。
■健康まちづくりプロジェクトの概要
現実の健康まちづくりプロジェクトとして、北大阪健康医療都市(NohBIT)を取り上げる。図−2に、具体的な北大阪健康医療都市(健都)の構成エリアを示す。健都はJR岸辺駅の東西地域で、吹田市と摂津市に帰属する。
平成30年に健康都市の中心的施設として、国立循環器病研究センター・市立吹田市民病院が移転した。また関連主要施設として、健康増進広場、イノベーションパーク、レールサイド公園、健都ライブラリー、高齢者向け複合居住施設、都市居住地区(摂津市)などが設置されている。また、緑の遊歩道(約3km)はJR吹田駅〜JR岸辺駅〜JR千里丘駅のコースである。
ここで、写真−1に示す国立循環器病研究センターは、日本のナショナルセンターとして国民の健康と幸福のために日々循環器病克服を目指して予防、治療、研究等に取り組んでいる。基本コンセプトは、「健康イノベーションと新しいライフスタイルで健康寿命の延伸をリードするまち」を創造するとされている。このとき、①健康意識の変化、②医療イノベーション、③健康づくりからの地域活性化を目指すものである。
関連する吹田市・摂津市における都市健康度指標として平均寿命・健康寿命の実績値を求めた(2013年)。平均寿命・健康寿命とともに吹田市が大きい。たとえば、健康寿命では、吹田市(男性:79.70、女性:83.67)、摂津市(男性:78.48、女性:82.72)の値となっている。
■市民の生活様式と健康まちづくりの意識
PT調査に基づく交通行動分析から、吹田市・摂津市の活動時間分布(外出時間の分布)を描くと、720分(12時間)を中心としたほぼ同型の分布が観測される。平均活動時間は、411.5分(吹田市)、411.7分(摂津市)でほぼ等しい値である。したがって、時間消費からみた生活様式の両市の相違は比較的小さいものと考えらえる。
つぎに、図−3に吹田市・摂津市における都市交通機関分担の状況を示す。この図より、鉄道利用割合が27%(吹田市)、19%(摂津市)一方で、徒歩利用割合は、28%(吹田市)、24%(摂津市)である。したがって、移動交通手段に関しては、摂津市に対して吹田市は、相対的に公共交通・徒歩の利用が多いことがわかる。
さらに徒歩交通に関する集計では、吹田市(男性:17.5分、女性:16.5分)に対して摂津市(男性:12.0分、女性:12.7分)である。こうした交通行動より類推される生活様式からは、吹田市の方が平均的な徒歩(歩数)が大きく、相対的に健康的な生活様式であることがわかる。
■健康まちづくりプロジェクトへの市民意識
ここでは健都プロジェクトに関する市民意識を分析する。関連地域である吹田市・摂津市の市民アンケート調査結果を利用する。市民意識アンケート調査は、吹田市ではWEB調査、摂津市では郵送調査であり、調査項目も相違する。特に吹田市では、健康まちづくりプロジェクトへの市民の協力・参加意識について調査している。
ここでは、健康まちづくりプロジェクト展開での市民の健康意識・生活様式・都市健康度の好循環を検討する。
健康まちづくりでは、市民の自律的意識形成が重要である。そこで、健康まちづくりに関する各市民の「健康への取り組み」について質問を行った3)。吹田市の取り組み上位は、「運動」「食事」「睡眠」「健康診断」である。
一方で、摂津市では、「運動」「たばこ」「健康診断」「睡眠」である。すなわち市民意識からは、共通して「運動」「睡眠」「健康診断」が挙げられた。また、吹田市民においては、500名の回答者のうち、238名が「健康への取り組みなし」と回答している点が特徴的である。
さらに、この「健康へ取り組まない理由」(健康意識の形成なし)を質問している。各市のアンケート調査では、設定項目が若干相違するため、厳密な比較検討は難しいが顕著な相違もみられる。たとえば、吹田市では、「面倒であると感じるため」が最多数である。一方で、摂津市では、「大きな病気にかかったことがない」が最多数である。大規模医療施設に対する認識の相違かもしれない。
つぎに、図−4に健康まちづくりプロジェクトの基本要素としての「健康倶楽部」への参加意向を示す4)。
これより、吹田市では、「内容を知ってから考える」の回答が多い。これより、吹田市の健康まちづくりイベントへの参加意識は相対的に高いと考えられる。
■市民意識と都市健康度の増進プロセス
本稿では、現実的な健康まちづくりプロジェクトとして、北大阪健康医療都市の動向を踏まえて、市民の健康意識形成と都市健康度の関係性ついて検討を行った。
特に市民の都市活動形態・交通行動パターンが健康な「生活様式」の反映として定量的に観測されることがわかった。また、市民の健康意識の向上は、健康まちづくりへの協力・参加を推進する可能性を示した。
これらの分析結果を踏まえて、健康まちづくりプロジェクトの展開においては、市民の自律的な健康意識の創生を基本として、まちづくりのプロセスに、①健康意識→②健康活動→③健康増進→①健康意識→の好循環を目指すことの重要性が示唆されたものと考えている。
参考文献
- 1)内閣府、令和元年版高齢社会白書、2019.
- 2)吹田市, 摂津市:北大阪健康医療都市(健都)「健康・医療」のまちづくり, http://kento.osaka.jp/.
- 3)秋山孝正・井ノ口弘昭:市民意識からみた健康まちづくりプロジェクトの基盤形成、日本福祉のまちづくり学会全国大会,MC3-2,2016.
- 4)秋山孝正・井ノ口弘昭:健康都市指標の体系的構築と評価、第22回先端科学技術推進機構シンポジウム講演集,pp.207-210,2018.