人をつなぎ地域をつくる農福連携をめざして

2020年3月号

(社福)さんさん山城 大河内雅司

■57歳の農福新人

 定年を待たず、この4月にまちづくりコンサルタントから農福連携1)の現場に転職しました。農業従事者の平均年齢は66.8歳(平成30年)なので、畑では57歳の青年(更年期ですが)といったところです。「健康なまちづくり(都市計画)のあり方とは」、新人の視点で農福連携の現場から感じたことを報告します。

■集う・つながる・働く さんさん山城

 「さんさん山城」は京田辺市に立地している福祉事業所(障害者就労継続支援B型2)、定員20名)です。聴覚障がい者の集いの場(居場所)づくりを目的とした自主的活動を経て、平成23(2011)年に開設されました。

 農業・加工・カフェ等の活動を通じて、障がい者が地域とつながり、地域課題の解決に貢献しながら地域に必要とされる存在になる、「集う・つながる・働く」場をめざしています。

■遊休農地の再生から6次化の取組へ

 農業は、荒廃した茶園や遊休農地の再生に取組むなど、何もないところから活動をスタートさせています。現在、5箇所、約70アールのほ場で、障害のある人が働いています。京都の伝統野菜である京都えびいも、万願寺唐辛子や、地域特産品の宇治茶、田辺茄子などを栽培し、JAに出荷しています。

高齢のため維持、管理できなくなった廃園予定の茶園において、毎年5月にはボランティアの参加を得て茶摘み体験イベントを実施するなど、地域ぐるみで茶畑を継承しています。

 加工では、抹茶を使った濃茶大福やクッキー、京都えびいもを使ったコロッケなどを、店頭や市役所、各種イベントで販売しています。

■地域の人たちをつなぐカフェ

 採れた野菜は先ずはJAへ出荷、規格外は模擬店などで販売、その他はカフェの食材に使うなど、できるだけ活用するようにしています。

 カフェでは、旬の野菜を使ったワンコインランチが好評で、一日最大80人を超える来客があるなど、幅広い世代と障害のある人がつながる交流の場となっています。

■ブランド確立と人材養成の体制づくり

 京都府は平成29(2017)年に「きょうと農福連携センター」を立ち上げて、その普及に努めています。さんさん山城は「南サテライト拠点」に指定されており、農福連携のモデルとしての役割が期待されています。障害のある人の自立をめざす工賃向上、農業人材の確保や農環境の保全、地域共生社会の実現など、農福連携を形にしていくことが求められています。

 開所から9年目を迎えて、さんさん山城では農福連携ブランドの確立と人材養成の体制づくりを課題としています。先ずは、ブランド確立として、ノウフクJAS3)第1号の認証を受けました。今後は、JGAP4)の取得や、若い世代を育てることができる持続可能な運営体制をめざします。

■農福連携から健康なまちづくりへ

 人のつながりや支え合いが弱くなり、引きこもりなどの孤立にともなう問題や、他者への不寛容が広がりつつあります。健康なまちづくりのためには、市民が健康である必要があり、そのために土に触れて香りを嗅ぐ、地元の野菜を育てて旬の時期に食べる機会の提供が必要と感じています。

 人をつなぎ地域をつくる農福連携を形にしていく、さんさん山城は地域に支えられて健康なまちづくりの拠点をめざしています。57歳の農福新人ですが、ここで根を張り役割を果たしていければと思っています。

写真−1 地域ぐるみで茶園を継承

【注釈】

  • 1)農業×福祉の取組です。障害のある人の社会参加と農業人材の確保によって、共生社会の実現をめざします。
  • 2)一般企業への就労が難しい人を対象とした非雇用型の働き方を支援するサービスです。経済的自立のために、工賃引き上げの取組が課題となっています。
  • 3)農林水産省が今年新たに設けた日本農林規格で、「障がい者が生産行程に携わった食品」が認証の条件の一つになっています。さんさん山城では、農林水産品として田辺茄子、京都えびいも、鷹の爪、万願寺唐辛子が、加工食品として抹茶、濃茶大福、抹茶クッキー、京番茶、干しずいきの認証を受けています。
  • 4)農林水産省が導入を推奨する農業生産工程管理手法。生産者団体が活用する農場・団体管理の基準。

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